障害を規定するのは誰/何なのか——障害学から考える「ディスアビリティ」の諸相
開講期間: 2025年1月18日 〜 2025年3月29日
隔週土曜日19:00~20:30
入門★★★
内容紹介
日本という国は、障害のある人々にとって生きやすい社会でしょうか。
障害のある人の社会参加の促進が叫ばれて久しくなります。しかし、上記の問いに対し、首を縦に振ることができる人は、残念ながら多くはないのではないかと考えられます。たしかに、昔にくらべれば多くの、障害のある人々が街に出るようになりましたし、社会参加を促進する制度も増え、車いすを使う人々が入りやすい建物もふえました。
しかし、国際的に考えると別の側面も見えてきます。日本は2007年に、国際連合の「障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)」に署名し、2014年に批准しました。その後、2022年に、日本の第1回政府報告に対して障害者権利委員会の総括所見が示されたのですが、そこで、障害のある生徒が依然として分離されている状態である、などといった、インクルーシブ教育の履行の不十分さなどの問題が指摘されました。これは、日本政府が進めている「特別支援教育」政策に対する懸念と考えられています。
つまり、日本政府が良かれと思ってしている(であろう)ことが国際的に厳しく批判される事態となったのです。この背景にはいろいろな要因が考えられるでしょうが、一つには、政策面においても文化面においても、障害については国際社会における「基準」と日本社会における「基準」があまりにも異なっているということがいえるのではないでしょうか。
日本という国がいわゆる「グローバル・スタンダード」にすべて盲従すべきではないのでは、という議論はあります。しかし、それを横においておくとしても、世界が「障害」をどのように見ているのかを冷静に知ることが、多様性の進化(深化)を否応なく迫られている日本社会の今後を考えるにあたって重要なのではないでしょうか。
その一つの手がかりとして、本講座では「障害学」(Disability Studies)という学問の理論的な基礎を学びます。この学問は、アメリカやイギリスなどで障害のある人々の権利を主張する運動から発生して、これらの国を中心として体系化が進みました。一方、日本においても先駆的な障害者権利運動がありましたが、学問として体系化されるのには時間がかかっています。
障害学の代表的な考え方は「障害の社会モデル」(以下、「社会モデル」とする)です。これは、障害は社会の側にある、という考え方です。例えば、建物の1階から2階に行けない人がいるとしましょう。これを、その人の身体機能の制約のみに根拠を求めるのが、個人の医学的要因のみに障害の根拠を求める「個人モデル(医学モデル)」です。その一方で、この理由を「1階と2階が階段でしかつながっていないからだ。エレベーターがあれば2階に上れる。」と考えるのが社会モデルです。つまり、社会が障害のある人々に対してバリアを作り出している、と考えるのです。
もっとも、この考え方にも限界があり、障害学外部からの批判はもとより、障害学内部からの自己批判も発生しました。社会モデルに対しても「個人の経験に十分な目を向けられていない」などの批判があります。また、社会モデルが政策形成にどこまで実効性を発揮してきたのか、という点にも議論の余地があるでしょう。近年は社会モデルを批判的に乗り越えようとする議論も盛んで、「批判的障害学」(Critical Disability Studies: CDS)という領域もあるほどです。本講座では、このCDSの概略にも触れます。
上述のように、障害を巡る人文・社会科学的な学問は、世界的な視野でみればどんどん広く・深くなっていっています。本講座では、そうした世界の潮流と日本の実態の両方に目配せをしながら、受講者の皆さんの「障害」に対する見方を「広く・深く」していただくことを目的とします。
そのために、まず1回目では「障害学」の成り立ちと、「社会モデル」の概略と歴史を概観します。第2回目以降では、障害モデルの各論を学んでいきます。この段階では、社会モデルの対極にあると考えられてきた「個人モデル(医学モデル)」の課題についても検討します。そして、「批判的障害学」、「インターセクショナリティ」、そして「人権モデル」などの障害学を巡る最近の動きを理論的に考えます。「理論的に考えます」と述べましたが、講義の中では実例を挙げながら、受講生と講師が議論する時間を確保します。
方法としては、まず前半の40分程度で講義を行います。その後、講師がいくつか質問を用意しますので、それらに基づいて受講者間と講師とで議論をし、各回の主題について理解を深めます。
日本社会は多様化が進んでいるといわれていますが、人種や民族、ジェンダー、そして言語などの相違のみならず、障害の有無が変数の一つとして数えられる時代に入ってきています。この講座を通じて、受講者が次のようなことができることを目標とします。
一点目は、「なぜ障害のある人が社会に包摂される必要があるか」について自分の意見を述べられるようになることです。
二点目は、障害をとらえる「モデル」の概略を理解し、それを職業生活や社会生活で活用できるようになることです。
そして三点目は、障害のある人に関する報道をみて、自分の意見を述べられるようになることです。
本講座を通じて、受講者の皆さんが「共生社会」のあるべき姿についていま一度見つめなおせるようになることを講師は望んでいます。
※障害の表記について
本講座では、原則として「障害」を漢字二文字で記述します。これは、「障害」の「害」は本人にあるのではなく、社会によって与えられたものだ、という障害学のひとつの考え方を反映したものです。
※授業資料について
講師が毎回スライドを作成し、授業前日までにGoogleクラスルームにアップロードします。それを予習・復習に用いてください。なお、より深く学ぶための参考文献についても随時資料内で触れます。
※情報保障について
情報のアクセスについて何らかのニーズのある人は、受講申し込み前にお問い合わせフォームよりご相談ください。可能な範囲で対応します。
※この講座は、2024年に開講された「ディスアビリティ(障害)とは何か——人文・社会科学的視点から考える」の続編ですが、同講座はすでに終了しているため、受講経験のない方でも内容理解が容易になるように、第1回で前回講座の復習を行います。また必要事項については、その後の回でも随時補足いたします。
障害学の成立を歴史的に概観します。特にアメリカとイギリスにおける歴史を中心に触れ、その後日本における展開について言及します。
第2回:「障害の個人モデル(医学モデル)」の何が問題なのか
障害学は、障害を医学的な「個人の問題」ともっぱら見ることを、「障害の個人モデル(医学モデル)」と称して批判してきました。なぜ、個人モデル(医学モデル)は批判されたのでしょうか。医学モデル自体を理解することで考えます。
第3回:「障害の社会モデル」の歴史と現在
障害学の大きな鍵概念は「障害の社会モデル」です。「障害は社会の側にある」と考えるこの発想の起源と、それが批判的に乗り越えられようとしている現在の状況を概観します。
第4回:「障害の人権モデル」の登場
障害者権利条約を理解するにあたっては、「障害の人権モデル」を理解することが重要です。国際連合も取り入れているこの理論の考え方と、社会モデルとの相違を学びます。
第5回:「批判的障害学」の射程
障害学の自己批判ともいえる「批判的障害学」が英米を中心に盛んになりつつあります。社会学のみならず人文学をも取り入れているこの運動が目指しているものを学び、日本においていかなる示唆があるかについても考えます。
第6回:「インターセクショナリティ」(交差性)と障害学、講座のまとめ
障害学のみならず、マイノリティを扱う人文・社会科学諸領域において注目されている概念のひとつに「インターセクショナリティ」(交差性)があります。差別の変数が文字通り「交差」して差別が深刻化するということを主張しているのですが、この思想が障害学に与える影響について考えます。
※受講者はアーカイブ(録画)の視聴が可能です。リアルタイムで授業に参加できない場合も見逃しなく受講できます。
※途中参加の場合も、全授業のアーカイブ動画をご覧いただけます。
※アーカイブの視聴可能期間は、講座終了から1年間です。
↓
2. 開講&受講の決定
↓
3. リアルタイムで授業に参加/アーカイブを見る/クラスルームから資料にアクセス
障害のある人の社会参加の促進が叫ばれて久しくなります。しかし、上記の問いに対し、首を縦に振ることができる人は、残念ながら多くはないのではないかと考えられます。たしかに、昔にくらべれば多くの、障害のある人々が街に出るようになりましたし、社会参加を促進する制度も増え、車いすを使う人々が入りやすい建物もふえました。
しかし、国際的に考えると別の側面も見えてきます。日本は2007年に、国際連合の「障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)」に署名し、2014年に批准しました。その後、2022年に、日本の第1回政府報告に対して障害者権利委員会の総括所見が示されたのですが、そこで、障害のある生徒が依然として分離されている状態である、などといった、インクルーシブ教育の履行の不十分さなどの問題が指摘されました。これは、日本政府が進めている「特別支援教育」政策に対する懸念と考えられています。
つまり、日本政府が良かれと思ってしている(であろう)ことが国際的に厳しく批判される事態となったのです。この背景にはいろいろな要因が考えられるでしょうが、一つには、政策面においても文化面においても、障害については国際社会における「基準」と日本社会における「基準」があまりにも異なっているということがいえるのではないでしょうか。
日本という国がいわゆる「グローバル・スタンダード」にすべて盲従すべきではないのでは、という議論はあります。しかし、それを横においておくとしても、世界が「障害」をどのように見ているのかを冷静に知ることが、多様性の進化(深化)を否応なく迫られている日本社会の今後を考えるにあたって重要なのではないでしょうか。
その一つの手がかりとして、本講座では「障害学」(Disability Studies)という学問の理論的な基礎を学びます。この学問は、アメリカやイギリスなどで障害のある人々の権利を主張する運動から発生して、これらの国を中心として体系化が進みました。一方、日本においても先駆的な障害者権利運動がありましたが、学問として体系化されるのには時間がかかっています。
障害学の代表的な考え方は「障害の社会モデル」(以下、「社会モデル」とする)です。これは、障害は社会の側にある、という考え方です。例えば、建物の1階から2階に行けない人がいるとしましょう。これを、その人の身体機能の制約のみに根拠を求めるのが、個人の医学的要因のみに障害の根拠を求める「個人モデル(医学モデル)」です。その一方で、この理由を「1階と2階が階段でしかつながっていないからだ。エレベーターがあれば2階に上れる。」と考えるのが社会モデルです。つまり、社会が障害のある人々に対してバリアを作り出している、と考えるのです。
もっとも、この考え方にも限界があり、障害学外部からの批判はもとより、障害学内部からの自己批判も発生しました。社会モデルに対しても「個人の経験に十分な目を向けられていない」などの批判があります。また、社会モデルが政策形成にどこまで実効性を発揮してきたのか、という点にも議論の余地があるでしょう。近年は社会モデルを批判的に乗り越えようとする議論も盛んで、「批判的障害学」(Critical Disability Studies: CDS)という領域もあるほどです。本講座では、このCDSの概略にも触れます。
上述のように、障害を巡る人文・社会科学的な学問は、世界的な視野でみればどんどん広く・深くなっていっています。本講座では、そうした世界の潮流と日本の実態の両方に目配せをしながら、受講者の皆さんの「障害」に対する見方を「広く・深く」していただくことを目的とします。
そのために、まず1回目では「障害学」の成り立ちと、「社会モデル」の概略と歴史を概観します。第2回目以降では、障害モデルの各論を学んでいきます。この段階では、社会モデルの対極にあると考えられてきた「個人モデル(医学モデル)」の課題についても検討します。そして、「批判的障害学」、「インターセクショナリティ」、そして「人権モデル」などの障害学を巡る最近の動きを理論的に考えます。「理論的に考えます」と述べましたが、講義の中では実例を挙げながら、受講生と講師が議論する時間を確保します。
方法としては、まず前半の40分程度で講義を行います。その後、講師がいくつか質問を用意しますので、それらに基づいて受講者間と講師とで議論をし、各回の主題について理解を深めます。
日本社会は多様化が進んでいるといわれていますが、人種や民族、ジェンダー、そして言語などの相違のみならず、障害の有無が変数の一つとして数えられる時代に入ってきています。この講座を通じて、受講者が次のようなことができることを目標とします。
一点目は、「なぜ障害のある人が社会に包摂される必要があるか」について自分の意見を述べられるようになることです。
二点目は、障害をとらえる「モデル」の概略を理解し、それを職業生活や社会生活で活用できるようになることです。
そして三点目は、障害のある人に関する報道をみて、自分の意見を述べられるようになることです。
本講座を通じて、受講者の皆さんが「共生社会」のあるべき姿についていま一度見つめなおせるようになることを講師は望んでいます。
※障害の表記について
本講座では、原則として「障害」を漢字二文字で記述します。これは、「障害」の「害」は本人にあるのではなく、社会によって与えられたものだ、という障害学のひとつの考え方を反映したものです。
※授業資料について
講師が毎回スライドを作成し、授業前日までにGoogleクラスルームにアップロードします。それを予習・復習に用いてください。なお、より深く学ぶための参考文献についても随時資料内で触れます。
※情報保障について
情報のアクセスについて何らかのニーズのある人は、受講申し込み前にお問い合わせフォームよりご相談ください。可能な範囲で対応します。
※この講座は、2024年に開講された「ディスアビリティ(障害)とは何か——人文・社会科学的視点から考える」の続編ですが、同講座はすでに終了しているため、受講経験のない方でも内容理解が容易になるように、第1回で前回講座の復習を行います。また必要事項については、その後の回でも随時補足いたします。
各回内容
第1回:「障害学」の成り立ちと現在障害学の成立を歴史的に概観します。特にアメリカとイギリスにおける歴史を中心に触れ、その後日本における展開について言及します。
第2回:「障害の個人モデル(医学モデル)」の何が問題なのか
障害学は、障害を医学的な「個人の問題」ともっぱら見ることを、「障害の個人モデル(医学モデル)」と称して批判してきました。なぜ、個人モデル(医学モデル)は批判されたのでしょうか。医学モデル自体を理解することで考えます。
第3回:「障害の社会モデル」の歴史と現在
障害学の大きな鍵概念は「障害の社会モデル」です。「障害は社会の側にある」と考えるこの発想の起源と、それが批判的に乗り越えられようとしている現在の状況を概観します。
第4回:「障害の人権モデル」の登場
障害者権利条約を理解するにあたっては、「障害の人権モデル」を理解することが重要です。国際連合も取り入れているこの理論の考え方と、社会モデルとの相違を学びます。
第5回:「批判的障害学」の射程
障害学の自己批判ともいえる「批判的障害学」が英米を中心に盛んになりつつあります。社会学のみならず人文学をも取り入れているこの運動が目指しているものを学び、日本においていかなる示唆があるかについても考えます。
第6回:「インターセクショナリティ」(交差性)と障害学、講座のまとめ
障害学のみならず、マイノリティを扱う人文・社会科学諸領域において注目されている概念のひとつに「インターセクショナリティ」(交差性)があります。差別の変数が文字通り「交差」して差別が深刻化するということを主張しているのですが、この思想が障害学に与える影響について考えます。
※受講者はアーカイブ(録画)の視聴が可能です。リアルタイムで授業に参加できない場合も見逃しなく受講できます。
※途中参加の場合も、全授業のアーカイブ動画をご覧いただけます。
※アーカイブの視聴可能期間は、講座終了から1年間です。
◆受講の流れ◆
1. お申し込み↓
2. 開講&受講の決定
↓
3. リアルタイムで授業に参加/アーカイブを見る/クラスルームから資料にアクセス
◦リアルタイム授業への参加URLは、受講決定時に自動送信されるメールに記載されている他、マイページ内「ダッシュボード」からもご確認いただけます。
◦講師とのやりとりや資料の配付はGoogle社が提供する学習管理アプリケーション「Googleクラスルーム」から行います。クラスルームにつきましては、受講決定時に別途招待メールが届きますので、そちらからご参加ください。
◦アーカイブはマイページ内「受講状況」からご覧いただけるほか、本ページ下部の「授業スケジュール」およびクラスルームからもご覧いただけます。
◦ディセミネでの初回受講時に送られる招待メールを承認することで、Googleカレンダーと自動で同期が可能です。是非ともお使いください。
授業予定
第1回 2025年1月18日(土)19:00〜20:30
第2回 2025年2月1日(土)19:00〜20:30
第3回 2025年2月15日(土)19:00〜20:30
第4回 2025年3月1日(土)19:00〜20:30
第5回 2025年3月15日(土)19:00〜20:30
第6回 2025年3月29日(土)19:00〜20:30
「障害学」の成り立ちと現在
第2回 2025年2月1日(土)19:00〜20:30
「障害の個人モデル(医学モデル)」の何が問題なのか
第3回 2025年2月15日(土)19:00〜20:30
「障害の社会モデル」の歴史と現在
第4回 2025年3月1日(土)19:00〜20:30
「障害の人権モデル」の登場
第5回 2025年3月15日(土)19:00〜20:30
「批判的障害学」の射程
第6回 2025年3月29日(土)19:00〜20:30
「インターセクショナリティ」(交差性)と障害学、講座のまとめ
※ 授業の進捗等により予定が変更になる場合がございます。予めご了承ください。
こんな人におすすめ
障害のある人にかかわる仕事や勉強、研究をしているが、何か引っかかるものを感じている人
医療や福祉・教育に関わる仕事や研究、勉強をしているが、何か引っかかるものを感じている人
身近に障害を持つ人がいる人、もしくは自身がなんらかの障害を持っている人
障害のある人を見ると、なんらかの感情を抱く人
ダイバーシティの意味を考え直したい人
その他関心のある人
医療や福祉・教育に関わる仕事や研究、勉強をしているが、何か引っかかるものを感じている人
身近に障害を持つ人がいる人、もしくは自身がなんらかの障害を持っている人
障害のある人を見ると、なんらかの感情を抱く人
ダイバーシティの意味を考え直したい人
その他関心のある人
講師情報
授業スケジュール
2025年1月18日 19:00 〜 20:30
第1回:「障害学」の成り立ちと現在
参加可能人数: 無制限次回開催
2025年2月1日 19:00 〜 20:30
第2回:「障害の個人モデル(医学モデル)」の何が問題なのか
参加可能人数: 無制限2025年2月15日 19:00 〜 20:30
第3回:「障害の社会モデル」の歴史と現在
2025年3月1日 19:00 〜 20:30
第4回:「障害の人権モデル」の登場
2025年3月15日 19:00 〜 20:30
第5回:「批判的障害学」の射程
2025年3月29日 19:00 〜 20:30
第6回:「インターセクショナリティ」(交差性)と障害学、講座のまとめ
障害を規定するのは誰/何なのか——障害学から考える「ディスアビリティ」の諸相
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