プラトンの『ソピステス』をギリシア語で読む——〈無いもの〉の存在をめぐって
開講期間: 2026年11月22日 〜 2027年2月21日
毎週日曜日9:00〜9:45
難易度: 発展※ 難易度についてはこちらを参照ください。
受講者募集中
事前募集期間2026年11月10日 21:00 まで
授業回数12 回
現在の申込数0名(最低開講人数: 1)
※ 事前募集期間中にお申し込み数が最低開講人数に達しなかった場合は不開講となります。
内容紹介
そのためエレアからの異邦人は、〈あらぬもの〉を〈ある〉とすること、すなわち虚偽の言表というものが存在することを示し、虚偽を作り出す者としてソフィストを定義しようとします。
かつてパルメニデスは、〈あるもの〉はある、〈あらぬもの〉はあらぬと主張したと伝えられていますが、そのパルメニデスの主張を採り上げながら、エレアからの異邦人は述べます。〈あらぬもの〉も或る意味では〈ある〉、と。
いわゆる「父親殺し」(哲学の父であるパルメニデスの主張を反駁するということ)と呼ばれるこのエピソードについては、古来から現代まで様々な哲学者が言及し、解釈が分かれたままとなっています。
果たして、〈あらぬもの〉は或る意味では〈ある〉、〈あるもの〉は或る意味では〈あらぬ〉と言うことで、エレアからの異邦人は、パルメニデスを反駁することができるのでしょうか。
本講座では、哲学史を通じて幾度となく参照される、この父親殺しをめぐる箇所(236e: Ὅπως γὰρ εἰπόντα χρὴ ψευδῆ λέγειν ἢ δοξάζειν ὄντως εἶναι... 以降)を、ギリシア語で読みます。
古典ギリシア語の知識がほとんどない方の参加も歓迎します。
(下記[受講前に最低限必要な知識]参照)
本講座では、講師が文章中のそれぞれの単語とそれに対応する英単語の表を、資料として共有しますので、辞書を引く時間がない方も、気軽にご参加いただけます。
原典のほか、英仏独語をはじめとする様々な訳書や訳者の解説も、必要に応じて参照し、解説します。
本講座では、以下のいずれかの参加方法を選ぶことができます。
a)能動的参加(予習をし、講座内で訳読を発表する)。この場合、古典ギリシア語の語彙力や読解力が確実に身につきます。
b)受動的参加(講師や他の受講者の訳読を聴講する)。この場合、古典ギリシア語の語学力はすぐには身につかないかもしれませんが、プラトンによる〈無いもの〉の存在をめぐる議論をじっくりと咀嚼することができます。
[注意事項]
※a)能動的参加を選択される場合、マイクが必要となりますので各自ご準備ください。
※本講座は語学講座となるため、b)受動的参加を選択される方も可能なかぎりリアルタイムでご参加ください。
※強制ではありませんが、授業中はなるべくカメラをオンにしてください。
◆◇本講座の主題の哲学史的な意義◇◆
本講座は古典ギリシア語の語学講座ですが、「存在」、「異他的なもの」、「虚偽」、「想像力」といった概念をめぐる、近現代哲学への導入としても、お楽しみいただけます。◆「存在」◆
多くの現代哲学者が、『ソピステス』における「父親殺し」の成否を論じていますが、そのうちの一人が、20世紀のドイツの哲学者、マルティン・ハイデガーです。
「存在」の意味を問う彼の主著、『存在と時間』では、冒頭で『ソピステス』が引用され、論じられています。そこには、彼が1924年から1925年のマールブルク大学冬学期講義「プラトン『ソピステス』」で論じた議論が、色濃く反映されています。
『ソピステス』講義で、ハイデガーは、エレアからの異邦人によるパルメニデス反駁(「父親殺し」)がほんとうに反駁といえるものであるのか、疑問を投げかけています。
鍵は、プラトンの表現にあります。
[…] τό τε μὴ ὂν ὡς ἔστι κατά τι (241d)
存在しないものは、或る意味では、存在するということ
καὶ τὸ ὂν αὖ πάλιν ὡς οὐκ ἔστι πῃ (241d)
また逆に、存在するものは、何らかの仕方で、存在しないということ
ハイデガーは、この文の中の、κατά τι(或る意味では)とπῃ(何らかの仕方で)に着目します。
プラトンは、
τό μὴ ὂν ὡς ἔστι
〈あらぬ〉ものは〈ある〉ということ、
τὸ ὂν ὡς οὐκ ἔστι
〈ある〉ものは〈あらぬ〉ということ、
と述べているのではなく、
τό [...] μὴ ὂν ὡς ἔστι κατά τι
〈あらぬ〉ものは「或る意味では」〈ある〉ということ、
τὸ ὂν […] ὡς οὐκ ἔστι πῃ (241d)
〈ある〉ものは「何らかの仕方で」〈あらぬ〉ということ、
と言っているのです。
つまりパルメニデスの主張は、完全に反駁されていないとみることができるのです。
ぜひプラトンを原典で読み、ハイデガーの問題提起について、考えてみませんか。
◆「異他的なもの」◆
ハイデガーと同様、プラトンによる「父親殺し」に懐疑的であるのが、20世紀のフランスの哲学者、エマニュエル・レヴィナスです。
『時間と他者』の中で、レヴィナスは言います。パルメニデスは、後継者たちによる、あらゆる父親殺しの試みを逃れてきた、と。彼は次のようにも述べています。そうであっても、できることなら、パルメニデスと手を切りたい、と。
実際、エレアの異邦人が、〈あらぬもの〉は或る意味では〈ある〉というとき、そこでは、非存在が(端的な意味での)存在に結びつけられているわけではありません。
同様に彼が、〈ある〉ものは何らかの仕方で〈あらぬ〉というとき、存在が(端的な意味での)非存在に結びつけられているわけでもありません。
そもそも、プラトン自身が述べています。
Ὁπόταν τὸ μὴ ὂν λέγωμεν, ὡς ἔοικεν, οὐκ ἐναντίον τι λέγομεν τοῦ ὄντος ἀλλ'ἕτερον μόνον. (257b)
私たちが〈存在しないもの〉と言うとき、どうやら私たちは、〈存在するもの〉の〈反対のもの〉を述べているのではなく、ただ〈異なるもの〉を述べているにすぎないのだ。
ここでは、〈あらぬもの〉(〈あるもの〉の反対のもの)ではなく、単に、〈あるもの〉に対して異他的なものが語られているのです。
つまり、プラトン自身、パルメニデスの「父親殺し」を成功したものと考えていたかどうか、厳密に言えば、確かではないのです。そもそも、この「父親殺し」は、原理的に不可能なものであるかもしれないのです。
レヴィナス自身は、『ソピステス』の詳しい引用や註釈をしているわけではありません。
しかし、プラトンの原文をギリシア語で読むことにより、レヴィナスの「父親殺し」をめぐる言及の背景が明瞭になり、彼が語る「存在」、「il y a(イリヤ、ある)」、「存在からの脱出」、「存在の彼方」といった概念が、より明確に見えるようになります。
さらに、〈何かに対して〉異他的なものと、〈端的に〉他なるもの(他者)の対比といった議論の入り口も、ここにあります。
◆「虚偽」と「想像(力)」◆
〈あらぬもの〉を〈ある〉と言うこと、それは、虚偽の言表です。また、声に出さずにそのように判断する場合、それは、虚偽の判断となります。
プラトンは、『ソピステス』において、表象(パンタシアー)を、感覚(アイステーシス)を通した判断(ドクサ)、あるいは、感覚(アイステーシス)と判断(ドクサ)が結合したものとして定義します。虚偽の判断が可能であることにより、虚偽の表象が可能であることも説明されます。
この議論は、アリストテレスが『デ・アニマ』で批判的に採り上げるものです。アリストテレスは、表象(パンタシアー)が虚偽でありながら、判断が真である場合もあると述べ、プラトンによる「表象」(パンタシアー)の定義に対して反論します。
しかし他方で彼は、表象(パンタシアー)が虚偽でありうることに着目します。表象をもつこと(何かをありありと思い浮かべること)は、目を閉じていても可能です。現実にないもの、現実に反するものも、表象する(思い浮かべる)ことはできます。
この虚偽でありうる(現実に反しうる、現実を超えうる)パンタシアーの概念は、アウグスティヌスとアリストテレスをともに吸収する13世紀の哲学者、トマス・アクィナスにおいて、イマーギナーティオー(表象/想像)の概念として発展することになります。
『神学大全』では、知性は何かを知解するとき、ありありと「表象/想像されるもの」(ファンタスマタ)(phantasmata)を必要とする、と主張されます。たとえば、抽象的なものを理解するときに、具体的で感覚可能な例が必要となる、といったようにです。
感覚されるものは、個的なものでしかなく、普遍的なものは、感覚できません。普遍は感覚には与えられません。しかし、イマーギナーティオー(想像力)が媒介となることにより、人間の知性は、個から普遍へと上昇することができるのです。
それは後に、18 世紀のドイツの哲学者、カントの『純粋理性批判』における、「想像力(Einbildungskraft)は知覚自体の必然的な要素である」という考え方へとつながります。カントにおいては、現実にはないものを想像する力は、感覚のみでは与えられない綜合を可能にすると考えられました。
このように、古代から中世を経て、近現代にまでいたる、西洋哲学の「想像力」をめぐる議論の出発点にあるのが、『ソピステス』における「父親殺し」のエピソードなのです。
★テキスト★
プラトンの『ソピステス』は、古い版であれば、オンラインで公開されています。プラトン『ソピステス』
John Burnetによる版(1903)
Σοφιστής - Βικιθήκη ※1
Philippe Remacleによるサイト(同じくJohn Burnetによる版・仏訳付き)
Le Sophiste (bilingue) - Platon※2
その他の版を書籍でお持ちの方は、そちらもお使いください。
本講座では、オンラインでの共有のしやすさという観点から、上の※1(または※2) のJohn Burnet版を用います。
1回の授業につき、上のテキスト(※1)で1~3段落に相当する分量を読むことを目安としますが、進行速度は受講者の方のレヴェルにより変わります。
◆◇古典ギリシア語初心者の方へ◇◆
[受講前に最低限必要な知識]1) 古典ギリシア語の文字(アルファベット)を覚えておいてください。
2) 形容詞・名詞・冠詞には、男性・中性・女性/単数・双数・複数があり、それぞれが格変化するということ(主格・属格・与格・対格・呼格)、動詞は一人称・二人称・三人称/単数・双数・複数で人称変化するほか、時制や態(能動態・中動態・受動態)によっても変化するということを知っておいてください。
3) 前置詞と名詞が結合する場合、名詞は前置詞に応じて格変化します。前置詞により要求される格が異なることを知っておいてください(どの前置詞がどの格を要求するかは文章を読めば自然に覚えますので、あらかじめ覚えておく必要はありません)。
[辞書]
本講座ではオンラインの希英辞典を用いますので、辞書がなくても手ぶらでご参加いただけます。ただし、英語が苦手な方は、ご自身で古典ギリシア語辞典(希和辞典)などを用意していただくとよいかもしれません。
※日本語訳のみでの参加をご希望の場合も考慮いたします。ご不明な点がありましたら、お問い合わせフォームよりお問い合わせください。
※受講者はアーカイブ(録画)の視聴が可能です。リアルタイムで授業に参加できない場合も見逃しなく受講できます。
※途中参加の場合も、全授業のアーカイブ動画をご覧いただけます。
※アーカイブ動画は、最低1年間視聴可能です。
◆受講の流れ◆
1. お申し込み↓
2. 開講&受講の決定
↓
3. リアルタイムで授業に参加/アーカイブを見る/クラスルームから資料にアクセス
◦リアルタイム授業への参加URLは、受講決定時に自動送信されるメールに記載されている他、クラスルーム(下記)、マイページ内「ダッシュボード」からもご確認いただけます。また、各授業日の2日または3日前にリマインダーメールをお送りいたします。
◦講師とのやりとりや資料の配付、講座に関する運営からのお知らせ等は、Google社が提供する学習管理アプリケーション「Googleクラスルーム」から行います。クラスルームにつきましては、受講決定時に別途招待メールが届きますので、そちらからご参加ください。
◦クラスルームの使い方についてはこちらをご覧ください。
◦復習や、やむをえず欠席する場合、ネット回線に不具合が生じた場合などのためにアーカイブを残しますが、語学の授業のため可能なかぎりリアルタイムでの出席をお願いします。
◦アーカイブはマイページ内「受講状況」からご覧いただけるほか、本ページ下部の「授業スケジュール」およびクラスルームからもご覧いただけます。
◦ディセミネでの初回受講時に送られる招待メールを承認することで、Googleカレンダーと自動で同期が可能です。是非ともお使いください。

授業予定
講師の学務・学会活動等により休講となることがあります。休講となる際は、事前に連絡します。
今期の授業予定日は以下となります。
11月22日、29日
12月6日、13日、20日、27日
1月10日、17日、31日
2月7日、14日、21日
※ 授業の進捗等により予定が変更になる場合がございます。予めご了承ください。
こんな人におすすめ
古典ギリシア語の初歩を大学で学びかけたものの、挫折した方
古典ギリシア語に興味はあるが、なかなか学ぶ時間がない方
講師情報

授業スケジュール
次回開催
2026年11月22日 09:00 〜 09:45
第1回
参加可能人数: 無制限2026年11月29日 09:00 〜 09:45
第2回
2026年12月6日 09:00 〜 09:45
第3回
2026年12月13日 09:00 〜 09:45
第4回
2026年12月20日 09:00 〜 09:45
第5回
2026年12月27日 09:00 〜 09:45
第6回
2027年1月10日 09:00 〜 09:45
第7回
2027年1月17日 09:00 〜 09:45
第8回
2027年1月31日 09:00 〜 09:45
第9回
2027年2月7日 09:00 〜 09:45
第10回
2027年2月14日 09:00 〜 09:45
第11回
2027年2月21日 09:00 〜 09:45
第12回
プラトンの『ソピステス』をギリシア語で読む——〈無いもの〉の存在をめぐって
受講を申し込む