多様性はなぜ守られるべきか——哲学からの正当化の試み[実践編]

開講期間: 2025年5月27日 2025年9月9日

3週に1回火曜日20:00〜21:30

入門★★★

受講者募集中

募集期間2025年5月20日 21:30 まで

授業回数6 回

受講料11,760 円

現在の申込数4(最低開講人数: 3)


内容紹介

一般に、「多様性」、ないしそれにしばしば付随する「寛容」という言葉は、ほぼ無批判的に善いものだと考えられてきています。しかし、現代の社会で散見される問題のいくつかは、これらの概念の不理解に起因するように思われます。

例えば、「生物多様性」という言葉があります。一般にこの言葉は、ある地域の生態系を保全しようとするときにしばしば持ち出される概念です。しかし、ここに含まれる「多様性」を「さまざまな種が存在していること」と捉えると、生物多様性は、「あらゆる種があらゆる場所に存在してもよい」という意味になり、現在常識となっている「ある地域に限定された多様な種を守る」という生物多様性の思想と真っ向から対立します。このことは、ブラックバスやコイなどの外来種をむやみに放つことが厳しく禁じられていることからも明らかでしょう。なぜ前者の「あらゆる種があらゆる場所に存在してもよい」という生物多様性がよくないのでしょうか。なかば常識化した問いにしっかりとした答えを与えるためには、多様性の根拠を与えてくれる哲学や倫理学による原理的な考察が必要となってくるのです。

前半となる理論編では、多様性の是非をプラトンとジョン・スチュアート・ミルの二者の哲学をベースに考えてきました。それによってわかったのは、答えの単一性を前提とする思想は一種の排他的なエリート主義を基盤としており、それが政治思想に応用される段階で困難が生じるということでした。また、多様性の根源にはミルの他者危害原理や真理の多元性がひそんでいる一方、一人ひとりの探究活動を前提としており、「とても面倒くさい」という難点があることが確認されました。

実践編では、この成果をもとに、生物多様性だけでなく、言語の多様性と性の多様性という現代の世界に根づいている諸問題について考察を加えていきたいと思います(詳しくは下記の各回内容をご覧ください)。

※初回の授業で理論編の要点を振り返ります。理論編を受講されていない方でも受講可能です。

理論編の講座ページはこちら。
https://disseminer.jp/courses/36

各回内容


第1回 理論編の振り返りと追加の考察
理論編では、多様性やその対義語である単一性について、おもにプラトンとJ. S. ミルの二人の思想に触れながら考えました。今回の講義全体でもその内容を適用することが多いので、まずはこの内容を復習します。そのあと、その内容をもとに、日本の郊外にひろがるロードサイドの風景の単一性について考察してみたいと思います。

第2回 生物多様性①
現在では、人間の活動が環境に大きな影響を与えてしまうという認識をもとに、もともと地域に生息していた生物が織りなす生態系を維持するべきだという考えが支配的です。しかし、上述したように、その正しさの理由をしっかりと与えることはなかなか難しい作業になります。まずこの回では、人間の環境保護史を振り返ると同時に、「在来種」や「外来種」の概念をベースとしてこの問題にあえて反論を投げかけます。

第3回 生物多様性②
生物多様性の問題の根底にあるのは、人間の有能さと無能さという両極端な性質です。人間が生み出した科学技術がもともとある自然環境を脅かし、それによって生命種がかかわる問題が生じるのは周知の事実ですが、科学技術をうまく使いこなせないということ自体が、ともすれば「いまある生物種を保持する」という保守的な「生物多様性」の概念を生み出してきています。この回では、この主張を哲学、倫理の諸学説によって擁護しつつ、現在にしきりに掲げられている生物多様性の意味について、再度考えていきます。

第4回 言語の多様性①
現代世界では、英語が共通語として定着しつつあります。日本人の英語力の低さを嘆きつつ、「英語をもっと日常的に取り入れるべきだ」という主張もしばしば聞かれます。実際、大学の講義や職場などで英語がオフィシャルに使われ始めてきています。しかし、こうした傾向は本当によいことなのでしょうか。英語という一つの言語が世界を完全に覆ってしまった場合、どのようなことが想定されるでしょうか。この回では、現代までの言語の歴史やあり方に触れながら、共通の言語一つに頼ることの是非について、まずは受講者一人ひとりに考えてもらいます。

第5回 言語の多様性②
言語が一つであれば非常に楽でしょう。わざわざふだん使っている言語以外の言語を学習する必要性がまったくなくなるからです。しかし、それではなぜ、これまで多くの言語が生まれてきたのでしょうか。そこには、共有の困難という問題以上の問題があります。それぞれの人が各々の環境に適応しながら生きているとき、そこで用いられる言語もまた、その地域固有のものになっていくのです。この回では、言語哲学や言語学の知見を用いながら、人間の多様な言語の存在意義についての考察を深めていきます。

第6回 性のあり方の多様性
現代では、LGBTQの概念が浸透してきているように、単に「男 / 女」という二分法によって人間を分類することが疑問視されてきています。この傾向の要因の一つには、ミシェル・フーコーの思想をはじめとする哲学、倫理学からの影響が間違いなく含まれます。一方、従来の性の分類にあてはまらないスポーツ選手の記録、競技参加をどうするかなど、課題は山積しています。この講義では、上述した哲学、倫理学からの影響を確認したのち、性の多様性を認める難しさの一旦を、性にまつわる多様性の問題から考察してもらいます。

※受講者はアーカイブ(録画)の視聴が可能です。リアルタイムで授業に参加できない場合も見逃しなく受講できます。
※途中参加の場合も、全授業のアーカイブ動画をご覧いただけます。
※アーカイブの視聴可能期間は、講座終了から1年間です。


◆受講の流れ◆

1. お申し込み

2. 開講&受講の決定

3. リアルタイムで授業に参加/アーカイブを見る/クラスルームから資料にアクセス

◦リアルタイム授業への参加URLは、受講決定時に自動送信されるメールに記載されている他、マイページ内「ダッシュボード」からもご確認いただけます。

◦講師とのやりとりや資料の配付はGoogle社が提供する学習管理アプリケーション「Googleクラスルーム」から行います。クラスルームにつきましては、受講決定時に別途招待メールが届きますので、そちらからご参加ください。

◦アーカイブはマイページ内「受講状況」からご覧いただけるほか、本ページ下部の「授業スケジュール」およびクラスルームからもご覧いただけます。

◦ディセミネでの初回受講時に送られる招待メールを承認することで、Googleカレンダーと自動で同期が可能です。是非ともお使いください。

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授業予定

第1回 2025年5月27日(火)20:00〜21:30

理論編の振り返りと追加の考察


第2回 2025年6月17日(火)20:00〜21:30

生物多様性①


第3回 2025年7月8日(火)20:00〜21:30

生物多様性②


第4回 2025年7月29日(火)20:00〜21:30

言語の多様性①


第5回 2025年8月19日(火)20:00〜21:30

言語の多様性②


第6回 2025年9月9日(火)20:00〜21:30

性のあり方の多様性

※ 授業の進捗等により予定が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

こんな人におすすめ

「多様性」や「寛容」がよいものだと思っているが、なぜそう言えるかについて、哲学的に知りたいと思う人。
「多様性」や「寛容」がそもそも是認されるべきものか、あらためて分析してみたい人。
現実の問題に対して、哲学や思想を用いて考察を加える行為をみてみたい人。

講師情報

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豊川祥隆

京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了
専門は18世紀イギリス哲学・ケア倫理

講師情報の詳細を見る ▶


授業スケジュール

  • 次回開催

    2025年5月27日 20:00 〜 21:30

    第1回 理論編の振り返りと追加の考察

    参加可能人数: 無制限
     
  • 2025年6月17日 20:00 〜 21:30

    第2回 生物多様性①

     
  • 2025年7月8日 20:00 〜 21:30

    第3回 生物多様性②

     
  • 2025年7月29日 20:00 〜 21:30

    第4回 言語の多様性①

     
  • 2025年8月19日 20:00 〜 21:30

    第5回 言語の多様性②

     
  • 2025年9月9日 20:00 〜 21:30

    第6回 性のあり方の多様性

     

多様性はなぜ守られるべきか——哲学からの正当化の試み[実践編]

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