多様性はなぜ守られるべきか——哲学からの正当化の試み[理論編]

開講期間: 2024年10月3日 2025年1月16日

3週に1回木曜日20:00〜21:30

入門★☆☆

講義の開催が決定しました

講義回数6 回

受講料11,760 円

受講者数21(最低開講人数: 3)


内容紹介

現代では、人種や考え、性的指向、自然環境などを語る際、「多様性」や「ダイバーシティ」という言葉がほぼ必ず用いられ、その実現が目指されています。私たちは、それをごく正しいことだと思っていますが、ではなぜ多様性が目指されるべき状態なのでしょうか。このように問われたとき、それにすぐに答えられる人はそう多くないと思います。

また、多様性がどんな状況においても肯定されてよいかというと、そうでもありません。例えば、「数学の答えについても多様性が認められるべき」という人は、現代では笑われるでしょうが、それは数学においては(答えに至る道筋に若干の多様性が認められるにせよ)答えは単一のものだという強い信念があるからであり、私たちはそれをおおむね正しいものだと認めているからにほかなりません。

それだけでなく、「各人の多様な信念をどんなものであれ認める」のであれば、社会をまとめるルールは作れないでしょう。それは、根拠のない人種差別的な思想や、他者に危害を加えることを具体的に企図している狂信的な思想などが、法的な取り締まりの対象となることからも明らかです。

では、どのような場合において多様性が求められ、それにはどのような根拠があるのでしょうか。あるいは多様性を否定する人たちはなぜ多様性を否定し、またどのような根拠で否定するのでしょうか。

この講座では、現代の多様性志向の考え方の根底にある哲学を、多様性が否定されるときにベースとなっている思想とともに取り上げ、多様性と非−多様性がどのように正当化され、また批判されるのかについて考えてみたいと思います。

上でも述べたように、多様性が合理的に機能するためには、無批判的な「何でもあり」という考え方は排除される必要があります。つまり多様性は一種の制限性、さらには排他性を包含していなければならない、ということです。

「多様性を守ろうとする人は多様性を否定する意見を多様性を守ろうとする人は否定しようとするが、それは意見の多様性を排除しようとしており矛盾している。多様性が保たれるべきなら、多様性を否定する私たちの考えも保持されるべきだ」といった議論もありますが、こうした議論を退けつつ、「何でもあり」と非−多様性の間に存する、穏当な多様性を目標として掲げることができるでしょう。

この講座を通じて、哲学や思想において多様性の擁護ないし批判の具体的な議論を知ることができるとともに、現代社会に生じる多様性をめぐる諸問題について考察する糸口を得ることができます。また、各回の講義ごとに全員で議論をする時間をとる予定です。それにより、学習した概念や思想を具体的な事例に自力であてはめる力を身につけてもらいます。

理論編では、多様性を考えるにあたり必要となる哲学的な枠組みを準備していきます。
実践編では、その枠組みを用いて、現代の社会でみられる多様性について、分析していきます。対象としては、生物多様性、言語の多様性、性の多様性などを取り上げる予定です。

なお、念のために申し上げておくと、講師自身はおおむね多様性を認めることには賛成です。民族多様性や性的指向の多様性に対して、それを否定するような言説を行う意図はまったくありません。

各回内容

第1回 答えの単一性をもたらす原理としての理性
内容紹介でもあげたように、通常数学においてはたどり着くべき正解は一つであると想定されています。なぜそのような想定が認められているかといえば、私たちは論理的に考える能力、つまり理性をもっていて、それをしっかり働かせれば唯一の正しい答えが得られるはずだ、という考えに至ります。この回では、この「理性」という概念がどこからやってきたかを紐解いていきます。

第2回 プラトンのイデア論の政治的射程
多様性の根拠づけをするにあたり、(論敵としての)プラトンの思想は避けて通れません。プラトンによれば、究極的には「何が正しいか」は客観的に定まっており、答えの多様性の余地はありません。この回では、その論理を、プラトンの非常に有名な学説である「イデア論」とともに見ていくとともに、それが政治などの実践的な分野に適用される議論を確認していきます。

第3回 ミルの自由論① 他者危害原理
多様性を擁護する根拠を与えてくれる偉大な古典として、J. S. ミルの『自由論』(1859)が挙げられます。 そこでは、私たちがどの程度まで自由に活動できるかについて、一つの重要な原理が提起されます。 それがいわゆる「他者危害原理(harm princple)」です。この回では、第4回の講義内容を見据えて、 私たちの自由がどの程度担保されるかについて示してくれるこの原理について詳しくみていきます。

第4回 ミルの自由論② ミルの真理観
第3回で扱った他者危害原理をもとに、私たちが何かを探求するにあたり、その答えが単一なのか、多様なのかについて、ひきつづきミルの『自由論』をもとにみていきます。そこでは、人間の可謬性や多様性が意識され、また、真理が可変的なものとみなされています。そしてそれゆえに、誤っている(ように見える)答えについても、一定の配慮がなされるべきであるという議論を確認していきます。

第5回 多様性と寛容にむけて——ヴォルテールの思想から
明らかに誤っているようにみえる答えについて、私たちはどのように接すればよいのでしょうか。
その際にしばしば持ち出される「寛容」という概念の背景と内容について、おもにフランス啓蒙主義の思想家ヴォルテールの議論から確認していきます。
また、現代でもしばしば多様性に対する批判のために持ち出される「多様性を否定する意見を多様性を守ろうとする人は否定しようとするが、それは矛盾している」という批判についても、これまで学んできたことをもとに反論したいと思います。

第6回 総論
この回では、第1回〜第5回で紹介した各議論を復習したうえで、多様性が関わりうるいくつかの事例をもとに、そこでどのような多様性が正当化ないし否定されうるかを全員で議論し、考えていきたいと思います。

※受講者はアーカイブ(録画)の視聴が可能です。一部の回に参加のご都合がつかない場合も、見逃しなく受講できます。
※途中参加の場合も、全授業のアーカイブ動画をご覧いただけます。
※アーカイブの視聴可能期間は、講座終了から1年間です。


◆受講の流れ◆

1. お申し込み

2. 開講&受講の決定

3. リアルタイムで授業に参加/アーカイブを見る/クラスルームから資料にアクセス

◦リアルタイム授業への参加URLは、受講決定時に自動送信されるメールに記載されている他、マイページ内「ダッシュボード」からもご確認いただけます。

◦講師とのやりとりや資料の配付はGoogle社が提供する学習管理アプリケーション「Googleクラスルーム」から行います。クラスルームにつきましては、受講決定時に別途招待メールが届きますので、そちらからご参加ください。

◦アーカイブはマイページ内「受講状況」からご覧いただけるほか、本ページ下部の「授業スケジュール」およびクラスルームからもご覧いただけます。

◦ディセミネでの初回受講時に送られる招待メールを承認することで、Googleカレンダーと自動で同期が可能です。是非ともお使いください。

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授業予定

第1回 2024年10月3日(木)20:00〜21:30

答えの単一性をもたらす原理としての理性


第2回 2024年10月24日(木)20:00〜21:30

プラトンのイデア論の政治的射程


第3回 2024年11月14日(木)20:00〜21:30

ミルの自由論① 他者危害原理


第4回 2024年12月5日(木)20:00〜21:30

ミルの自由論② ミルの真理観


第5回 2024年12月26日(木)20:00〜21:30

多様性と寛容にむけて——ヴォルテールの思想から


第6回 2025年1月16日(木)20:00〜21:30

総論

※ 授業の進捗等により予定が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

こんな人におすすめ

「多様性」や「寛容」がよいものだと思っているが、なぜそう言えるかについて、哲学的に知りたいと思う人。
「多様性」や「寛容」がそもそも是認されるべきものか、あらためて分析してみたい人。
現実の問題に対して、哲学や思想を用いて考察を加える行為をみてみたい人。

講師情報

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豊川祥隆

京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了
専門は18世紀イギリス哲学・ケア倫理

講師情報の詳細を見る ▶


授業スケジュール

  • 2024年10月3日 20:00 〜 21:30

    第1回 答えの単一性をもたらす原理としての理性

    参加可能人数: 無制限
     
  • 2024年10月24日 20:00 〜 21:30

    第2回 プラトンのイデア論の政治的射程

    参加可能人数: 無制限
     
  • 2024年11月14日 20:00 〜 21:30

    第3回 ミルの自由論① 他者危害原理

    参加可能人数: 無制限
     
  • 次回開催

    2024年12月5日 20:00 〜 21:30

    第4回 ミルの自由論② ミルの真理観

    参加可能人数: 無制限
     
  • 2024年12月26日 20:00 〜 21:30

    第5回 多様性と寛容にむけて——ヴォルテールの思想から

     
  • 2025年1月16日 20:00 〜 21:30

    第6回 総論

     

多様性はなぜ守られるべきか——哲学からの正当化の試み[理論編]

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