カント『啓蒙とはなにか』から考える人類の義務——心の未成年状態を脱するために

開講期間: 2024年11月27日 2025年2月19日

3週に1回水曜日20:00〜21:30

入門★★☆

講義の開催が決定しました

講義回数5 回

受講料9,800 円

受講者数10(最低開講人数: 3)


内容紹介

この講座では、18世紀ドイツの哲学者イマヌエル・カント(1724-1804)の歴史哲学を、彼の有名な論文『啓蒙とはなにか、この問いへの回答』(以下略称として『啓蒙とはなにか』)(1784)を通して学びます。

カントは18世紀のプロイセンに生きた哲学者です。カントは多くの哲学的著作を遺し、彼の思想はそれ以降の哲学に大変大きな影響を与えました。カントが取り組んだ問題は、世界が私たちにどのように経験されるのかを探求した認識論や、私たちが何かを美しいと判断する仕方を探求した美学論、私たちがいかに生きるべきかを問うた倫理学など多岐にわたります。『啓蒙とはなにか』の思想は、その中でもカントの「歴史哲学」に属するものであると言われています。ここで言う歴史哲学とは、人間が地球に存在するひとつの種族として、歴史的にいかなる進歩を遂げるべきかを扱うものです。

もう少し詳しく説明しましょう。カントにとって、〈歴史を知ること〉は単に人類の来し方に何が起こったのかという〈事実を学ぶ〉ことでした。これに対して〈歴史を哲学する〉ことは、人類の来し方のみならず行く末まで含めて、〈歴史を紡ぐ人類の営みに課せられた義務や理念とはなにか〉を問うものなのです。『啓蒙とはなにか』の問題意識もこの問いの中にあり、カントは〈人類が啓蒙の中で前進し続けるという理念〉にその回答を求めます。では、この「啓蒙」という状態はどんなもので、いかに実現されるのでしょうか?これが『啓蒙とはなにか』が探求するメインテーマとなります。

本講座の目的を明確にするために、『啓蒙とはなにか』の思想に少し立ち入ってみましょう。カントは、人間が啓蒙された状態とは、精神の未成年状態から脱することだと言います。これはどういうことでしょうか。

皆さんが幼いころ、自転車に乗る練習をした時のことを思い出してください。自転車の補助輪を外し、大人に自転車の後ろを支えてもらって練習しませんでしたか?私はひとりで漕ぎ続ける勇気がなくて、父が自転車を支える手を離すのを怖がったものです。それでも、小さな勇気を何度か重ねた結果無事にひとりで自転車を漕げるようになり、地元の野山を暴走的に駆け巡るまでになりました。このように、多くの人は〈身体的には〉親の保護下にあった未成年状態を自然に脱してやがてひとりで歩き、自転車も漕げるようになるものです。

しかし〈精神的には〉どうなのでしょうか?カントはこの点に鋭く切り込み、〈多くの人間はいまだに自分で考えることを怖がって、誰かに代わりに考えてもらっている〉と言うのです。つまりこのような人は〈精神的には未成年状態〉のままだというわけです。これは辛辣な見解です。というのもカントは、君は身体的には何十年も前に補助輪を卒業したかもしれないが、精神的にはひとりで運転するのが怖くて父に手を離すなと喚いている子供のままなのではないか、と言っているのですから。

このような洞察は、今を生きる私たちにとっても大変重要なものです。カントが批判する〈重要なことを誰かに決めてもらう〉ことの気楽さは、誰もが実際に感じたことがあるのではないでしょうか。しかし、たとえば世界状況が緊迫している現代では、ひとりひとりが自分で考えることを放棄せずにあるべき世界を慎重に考えることが必要です。誰かに決めてもらっていたらいつのまにかこの身が戦火の中にあったという歴史は決して生じさせるべきではありません。個人的な観点においても同様です。自分で考えることから逃げてきた結果、自分の人生の主導権がいつの間にか他人に握られていたなんていうことは、考えるだけでもぞっとするのではないでしょうか。

以上のように、カントの言い分は現代に生きる私たちの心にも刺さる鋭さを持っています。加えて、歴史哲学の著作である『啓蒙とはなにか』は個人がどう生きるべきかのみならず、私たち人類がどう生きるべきか、ひいては私たちが次世代の人間に対してどのような世界を準備すべきかを描き出そうとしています。したがって、『啓蒙とはなにか』を熟読することを通じて、私たちが人間として自分自身に対して、そして次の世代に対して負っている義務を〈啓蒙〉という観点から深慮することが、本講座の目的です。

加えて本講座は、哲学書(今回は論文になりますが)を一冊読み通すという経験を皆さんと共有するという目的も持っています。多くの哲学関連の著作は難解で重厚なものであるがゆえに、一冊を最初から最後まで読み通すということは時間的・体力的にも簡単なことではありません。講座で学ぶとしても、演習を除けばその著作の重要な箇所をかいつまんで取り扱うという形式が多いのではないでしょうか。しかし今回取り扱う『啓蒙とはなにか』は比較的短い論文ですので、講座の時間内ですべての文を吟味することが可能です。哲学の文献を最初の一文から最後の一文まで内容を理解しながら読んだという経験は、今後の読書に対する確かな自信や経験値となるはずです。カントの著作を通読してみたいという方も、ぜひご参加いただけますと幸いです。

もちろん、登場する専門用語の解説は逐一しっかりと行います。一般的には難解と言われるカントの記述を理解することに加え、受講者の方にカントの著作を自身で読解できる力を身につけてもらうことも本講座の目的のひとつです。

「啓蒙する(aufklären)」というドイツ語は、16世紀以前はもともと「空が晴れる」を意味する動詞として用いられていました。この語感は、「啓蒙」=「蒙(昏き/暗き)を啓く」という日本語訳にも現れています。カントの思想は、なにより日々を善く生きたいと願う人にとってのひとつの道標となってくれる思想です。啓蒙を希望豊かに論じあげるカントの文章に向かうことを通じて、私たちが社会で日々踏ん張る心を明るく照らせるような、そんな講座をお届けしたいと思います。

★テキスト★

講座でも逐一日本語訳を提示いたしますが、より深い思想理解のためにできれば下記のテキストをご準備ください。講座で用いる日本語訳も、このテキストに準拠いたします。

イマヌエル・カント(御子柴善之訳)『道徳形而上学の基礎づけ』人文書院、2022年

※タイトルは『道徳形而上学の基礎づけ』ですが、この本の付録(pp. 177-193)に、本講座のテキストが『啓蒙とは何か、この問いへの回答』として収録してあります。
※他の翻訳をすでにお持ちの方は、そちらをご使用いただいても問題ございません。

※受講者はアーカイブ(録画)の視聴が可能です。リアルタイムで授業に参加できない場合も見逃しなく受講できます。
※途中参加の場合も、全授業のアーカイブ動画をご覧いただけます。
※アーカイブの視聴可能期間は、講座終了から1年間です。


◆受講の流れ◆

1. お申し込み

2. 開講&受講の決定

3. リアルタイムで授業に参加/アーカイブを見る/クラスルームから資料にアクセス

◦リアルタイム授業への参加URLは、受講決定時に自動送信されるメールに記載されている他、マイページ内「ダッシュボード」からもご確認いただけます。

◦講師とのやりとりや資料の配付はGoogle社が提供する学習管理アプリケーション「Googleクラスルーム」から行います。クラスルームにつきましては、受講決定時に別途招待メールが届きますので、そちらからご参加ください。

◦アーカイブはマイページ内「受講状況」からご覧いただけるほか、本ページ下部の「授業スケジュール」およびクラスルームからもご覧いただけます。

◦ディセミネでの初回受講時に送られる招待メールを承認することで、Googleカレンダーと自動で同期が可能です。是非ともお使いください。

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授業予定

第1回 2024年11月27日(水)20:00〜21:30

人間よ「あえて賢くあれ!」―個人の啓蒙とはなにか―


第2回 2024年12月18日(水)20:00〜21:30

学識者として生きよ―公衆の啓蒙とはなにか―


第3回 2025年1月8日(水)20:00〜21:30

理性を公開的に使用するとは―職業人の啓蒙とはなにか―


第4回 2025年1月29日(水)20:00〜21:30

人類の未来と次世代への義務―当世代人の啓蒙とはなにか―


第5回 2024年2月19日(水)20:00〜21:30

人間よ「自由に考え続けよ」―統治者の啓蒙とはなにか―

※ 授業の進捗等により予定が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

こんな人におすすめ

カントの思想に興味がある人
歴史哲学に興味がある人
倫理学に興味がある人
哲学書を一冊通して読んでみたい人
カント倫理学から考える「善く生きること」——『道徳形而上学の基礎づけ』編」を受講して下さった人(テキストがそのままご使用になれます)

講師情報

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中村涼

カント倫理学 環境倫理学 動物倫理学

講師情報の詳細を見る ▶


授業スケジュール

  • 次回開催

    2024年11月27日 20:00 〜 21:30

    第1回 人間よ「あえて賢くあれ!」―個人の啓蒙とはなにか―

    参加可能人数: 無制限
     
  • 2024年12月18日 20:00 〜 21:30

    第2回 学識者として生きよ―公衆の啓蒙とはなにか―

     
  • 2025年1月8日 20:00 〜 21:30

    第3回 理性を公開的に使用するとは―職業人の啓蒙とはなにか―

     
  • 2025年1月29日 20:30 〜 21:30

    第4回 人類の未来と次世代への義務―当世代人の啓蒙とはなにか―

     
  • 2025年2月19日 20:00 〜 21:30

    第5回 人間よ「自由に考え続けよ」―統治者の啓蒙とはなにか―

     

カント『啓蒙とはなにか』から考える人類の義務——心の未成年状態を脱するために

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