カント倫理学から考える「善く生きること」——『道徳形而上学の基礎づけ』編

開講期間: 2024年08月21日 2024年10月16日

隔週水曜日20:00〜21:30

入門★★☆

講義の開催が決定しました

講義回数5 回

受講料9,800 円

受講者数23(最低開講人数: 3)


内容紹介

この講座では、18世紀ドイツの哲学者イマヌエル・カント(1724-1804)の倫理学を、彼の代表作のひとつである『道徳形而上学の基礎づけ』(1785)を通して学びます。 

カントは18世紀のプロイセンに生きた哲学者です。カントは多くの哲学的著作を遺し、彼の思想はそれ以降の哲学に大変大きな影響を与えました。カントが取り組んだ問題は、世界が私たちにどのように経験されるのかを探求した認識論や、私たちが何かを美しいと判断する仕方を探求した美学論など多岐にわたります。

その中でも彼の道徳哲学は、「義務論」と呼ばれる倫理学上の一つの立場を代表するものとして、現在でも特に高く評価されている思想のひとつです。この講座が扱う『道徳形而上学の基礎づけ』も、彼の倫理学のエッセンスが詰まった大変重要な著作です。

倫理学とは、私たちが則る倫理や道徳がまっとうなものであるのかを問い直し、これらの倫理や道徳が備えるべき「善さ」とはなにかを考える学問です。せわしない現代社会に生きる私たちは、善い人間でありたいと漠然と願ってはいても、その「善さ」とはそもそも何なのか立ち止まって考える機会をあまり与えられていません。むしろ、技能や結果ばかりが求められる現代においては、学校や職場、恋人探しの場面でさえ重視されているのは、いわゆる「善良さ」よりも「優秀さ」であると感じることが多いのではないでしょうか。

そのような社会では、優秀な結果をたくさん残すことこそが善いことなのだと人々が思っても無理のないことです。だから、多くの人は仕事のスキルを磨いたり効率を上げたり、社会の中で賢く立ち回る方法を模索することに一生懸命になっています。

しかしカントは、このように何かに熟練していることや、立ち回りが怜悧であることには、実は道徳的な価値はないと言います。自分が望んだ結果を手に入れるためにばかり心を砕く生き方や、その結果生じたお金や、優越感や、社会的地位には善さというものは宿らないのです。そうではなく、カントは人間がある行為を行うときの「意志」のあり方に道徳性を見出します。この意味で、カント倫理学は人間の外面ではなく内面に価値を見出す思想であると言えるでしょう。

それでは、私たちはどのような心構えを持って生きれば善く生きられるのでしょうか。この問いに対する答えを、カントの遺したテキストから理解することがこの講座の目的です。



この講座が扱う『道徳形而上学の基礎づけ』という著作は、タイトルからも分かるように、道徳形而上学という一つの学を基礎づけるために書かれました。

カントは実際に『道徳形而上学』という本を1797年に出版しますが、これは人間が行うべき道徳の体系を示した著作です。しかし、道徳はただ「これをやりなさい」と言われるだけではそれが本当に正しい道徳なのかはわかりません。自信をもって「これが人間の義務だ!」と言うためには、その道徳の根拠、すなわち道徳の基礎がしっかりしていないといけないのです。道徳形而上学の基礎があやふやな状態では、その上に建っている道徳の形而上学もいずれ倒壊してしまうことになるでしょう。

それゆえ、〈正しい道徳とはどのような性質を持つものなのか基礎づける〉という仕事を、カントは『道徳形而上学』を書く前にしなければなりませんでした。この営みが『道徳形而上学の基礎づけ』という著作のメインテーマです。このようにカント倫理学の根本を支える原理を提供しているがゆえに、この著作は古今のカント研究のみならず、倫理学一般の研究においても避けては通れない重要性を持っているのです。

『道徳形而上学の基礎づけ』は今から240年も前に書かれたものですが、この思想が黴の生えた使い物にならない思想では決してないことが、この著作を読むとお分かりになると思います。実際、カントの著作は単に古典として読まれるだけではなく、現代的な倫理的問題を考える際にも、現役選手として手引きとされている思想なのです。

現代的な倫理的問題の領域とは、例えば生命倫理や生殖・医療倫理、ビジネス倫理、AI倫理、環境倫理、動物倫理などです。これらはどれも、高度な医療技術や社会のグローバル化、AI技術や急激な気候変動など、カントが生きた時代には存在しなかった世界状況や技術に端を発した問題領域です。新しい環境や技術、初めて立ち向かう問題に直面した時、私たちはどうするべきなのか。これから来る時代の新たな問題に対しても、その答えがカント倫理学に見出せると考える人たちが今も数多くいるのです。

さらに、一般的には難解と言われるカント倫理学の主旨を理解することに加え、受講者の方にカントの著作を自身で読解できる力を身につけてもらうことも、この講座の目的の一つです。そのために、この講座ではカントの思想の表面をいわば格言集を読むように撫ぜるのではなく、カントが用いる「義務」「格率」「定言命法」などの基本的な概念から正確に理解することを目指します。

カント倫理学は上で述べたような社会問題に限らずとも、なにより日々を善く生きたいと願う人にとってのひとつの羅針盤になってくれる思想です。これを学ぶことで、自分がどうしたらよいかわからないとき、カント倫理学の考え方が糧となる瞬間がきっと訪れると思います。普段は道徳に関心がない人も、忙しい毎日の中でふと「あの時ああするべきじゃなかったかもしれない」と心の声がする瞬間というものがあるのではないでしょうか。この声の主の正体を知ると、前よりも少し、善い生き方を目指す足取りが軽くなる―そんな思想をディセミネからお届けしたいと思います。

★テキスト★

イマヌエル・カント(御子柴善之訳)『道徳形而上学の基礎づけ』人文書院、2022年。

※「道徳形而上学」は、かつては「人倫の形而上学」とも呼ばれていました。本講座では2022年の御子柴訳にしたがい「道徳形而上学」の表記を採用しています。

※受講者はアーカイブ(録画)の視聴が可能です。一部の回に参加のご都合がつかない場合も、見逃しなく受講できます。
※途中参加の場合も、全授業のアーカイブ動画をご覧いただけます。
※アーカイブの視聴可能期間は、講座終了から1年間です。


◆受講の流れ◆

1. お申し込み

2. 開講&受講の決定

3. リアルタイムで授業に参加/アーカイブを見る/クラスルームから資料にアクセス

◦リアルタイム授業への参加URLは、受講決定時に自動送信されるメールに記載されている他、マイページ内「ダッシュボード」からもご確認いただけます。

◦講師とのやりとりや資料の配付はGoogle社が提供する学習管理アプリケーション「Googleクラスルーム」から行います。クラスルームにつきましては、受講決定時に別途招待メールが届きますので、そちらからご参加ください。

◦アーカイブはマイページ内「受講状況」からご覧いただけるほか、本ページ下部の「授業スケジュール」およびクラスルームからもご覧いただけます。

◦ディセミネでの初回受講時に送られる招待メールを承認することで、Googleカレンダーと自動で同期が可能です。是非ともお使いください。

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授業予定

第1回 8月21日(水)20:00〜21:30

道徳を考える能力「理性」―『道徳形而上学の基礎づけ』という作品の意図を捉える―


第2回 9月4日(水)20:00〜21:30

「善い意志」とはなにか?―善いものは、この世界でたったひとつしかない―


第3回 9月18日(水)20:00〜21:30

道徳性の「定言命法」―カント倫理学の最重要原理を理解する―


第4回 10月2日(水)20:00〜21:30

人間の「尊厳」の正体―人間の何がそんなに特別なのか?―


第5回 10月16日(水)20:00〜21:30

人間がほんとうに「自由」であるとはどういうことか?―『道徳形而上学の基礎づけ』が今も私たちに呼びかけているもの―


※ 授業の進捗等により予定が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

こんな人におすすめ

倫理学に興味がある人
カントの思想に興味がある人
哲学書を読んでみたい人

講師情報

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中村涼

カント倫理学 環境倫理学 動物倫理学

講師情報の詳細を見る ▶


授業スケジュール

  • 2024年08月21日 20:00 〜 21:30

    第1回 道徳を考える能力「理性」―『道徳形而上学の基礎づけ』という作品の意図を捉える―

    参加可能人数: 無制限
     
  • 2024年09月04日 20:00 〜 21:30

    第2回 「善い意志」とはなにか?―善いものは、この世界でたったひとつしかない―

    参加可能人数: 無制限
     
  • 次回開催

    2024年09月18日 20:00 〜 21:30

    第3回 道徳性の「定言命法」―カント倫理学の最重要原理を理解する―

    参加可能人数: 無制限
     
  • 2024年10月02日 20:00 〜 21:30

    第4回 人間の「尊厳」の正体―人間の何がそんなに特別なのか?―

     
  • 2024年10月16日 20:00 〜 21:30

    第5回 人間がほんとうに「自由」であるとはどういうことか?―『道徳形而上学の基礎づけ』が今も私たちに呼びかけているもの―

     

カント倫理学から考える「善く生きること」——『道徳形而上学の基礎づけ』編

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