美術の多様性はどこから生まれるのか——「視覚」の諸相から考える美術の見方

開講期間: 2026年6月1日 2026年8月31日

隔週月曜日20:00〜21:30

難易度: 入門〜中級※ 難易度についてはこちらを参照ください。

受講者募集中

募集期間2026年5月25日 21:00 まで

授業回数7 回

受講料14,400 円

現在の申込数3(最低開講人数: 7)


内容紹介

美術や芸術、あるいはアートという言葉を聞いたとき、何を思い浮かべるでしょうか。レオナルド・ダ・ヴィンチやラファエロ、あるいはボッティチェリなどのルネサンス絵画を思い浮かべる人もいれば、ピカソやゴッホ、モネなどの近代美術を連想する人、あるいは現代アートや日本美術を思い起こす人もいるでしょう。ひとくちに美術や芸術、アートと言ってもその中身はきわめて多様であり、その差異も驚くほどです。もはや、ここには名前以外の共通点はないかのようにすら思われます。ではこの美術の多様性や差異は一体どこから生まれてくるのでしょうか。

この問いに対して、時代や国が違うから、文化が違うからと説明することは簡単です。しかしこの説明は、実のところ単に事実を述べているだけで、その理由を説明してくれているわけではありません。異なる文化は異なる芸術を生むというのが真実であったとしても、それが「なぜ」なのかはいまだ説明されていないからです。

本講座ではこの問いに対して、これまでの美術史学の成果を踏まえながら、「視覚」という観点から考えてみたいと思います。

美術史という領域が学問として成立したのは、実は比較的最近のことで、一般には18世紀後半から19世紀にかけてのことだと考えられています。その後美術史学もさまざまに発展していきますが、特に19世紀後半から20世紀前半に確立した近代美術史学は、異なる様式には異なる視覚が対応すると考え、当時規範的とみなされていたルネサンス様式とは異なる美術をいかに理解するかという問題に取り組みました。そしてゴシックやバロック、マニエリスムといった様式を単なる堕落や逸脱した形式としてではなく、それぞれに固有の秩序や論理をもつものとして、つまり独自の「視覚」をもつものとして捉えなおそうとしたのです。

このように考えるならば、さまざまな美術のあり方には、それに対応する「視覚」があることになります。たとえば、バロック美術の研究に打ちこみ、まさに近代美術史学の基礎を築いたハインリヒ・ヴェルフリンは、ルネサンス美術とバロック美術を5つの観点から対比し、それぞれの独自性を論じました。そして、ルネサンス美術とバロック美術には単純な優劣があるわけではなく、異なる人生の理想が表されているのだとさえ述べています。

ヴェルフリンが論じたような各様式に内在する視覚を理解することは、その様式の美術の見方を理解することでもあり、それは多様な美術作品の見方を学ぶことでもあります。本講座ではヴェルフリンによるルネサンス美術の見方を基準としながらも、古代エジプトからゴシック、マニエリスム、バロックといったさまざまな様式にそなわる視覚の独自性を考えていきます。さらにエルンスト・ゴンブリッチ、デイヴィッド・ホックニー、グリゼルダ・ポロックらの研究も参照することで、単なる様式論を超えた、美術作品に表れている「視覚」の諸層を考えてみたいと思います。それによって受講者自身がみずからの「視覚」を自覚的に捉え、新たな視点を得ることを目指します。

私たちは作品を見つめるとき、どのように「見て」いるのでしょうか。あるいは作者は、その作品を作ったときどのように「見て」いたのでしょうか。視覚をめぐるこうした考察は、美術鑑賞に新たな深みを与えるだけでなく、自分自身の認識のあり方を見直す契機ともなります。それまで良さがわからなかった作品も、見方がわかることで一気に理解できたり、何度も見たことのある対象でも新たな魅力に気づいたりと、新鮮な眼で対象を見ることができるはずです。それは自分自身の視覚を絶対視せず、つねに開かれた目線で見ることを学ぶことにもつながるでしょう。また一見すると稚拙に見えたり、かたちが歪んでいるようにも見えるような作品の見方を学ぶことは、これからの芸術鑑賞にとっても大きく役立つはずです。

各回内容

まず初回では、エルンスト・ゴンブリッチの議論を手がかりに、「見る」とはどのような行為なのかを考えます。ゴンブリッチは西洋美術の入門書『美術の物語』の著者としても世界的に有名ですが、理論的な主著である『芸術と幻影』において、視覚を単なる受動的な知覚としてではなく、私たちがすでにもっている図式を観察によって修正していく能動的な過程として捉えました。ここでは、私たちが世界を「そのまま」見ているのではなく、ある種の見方をすでに身につけていることを考えてみます。ここでの議論は講座全体のベースとなるものです。

続く第2回から第5回までは、ハインリヒ・ヴェルフリン、アロイス・リーグル、ヴィルヘルム・ヴォリンガー、グスタフ・ルネ・ホッケといった近代美術史学の論者たちの議論を通して、視覚のあり方がどのように歴史的に構成されてきたのかを検討します。彼らはそれぞれに、バロック、末期ローマ、ゴシック、マニエリスムの視覚を検討し、その独自のあり方を明らかにしました。彼らが検討した様式は、いずれも当時規範とされたルネサンス美術とは異なる作風を示しており、長く退廃的ないし逸脱的とみなされていました。ここでの議論によって、これらのさまざまな様式が、ルネサンス的な古典的な視覚とは異なる仕方で世界を捉えようとしていたことが明らかになるはずです。各様式に込められた視覚を理解することは、美術作品に対する多様な視覚を手に入れることにもつながります。

第6回では、現代アーティスト、デイヴィッド・ホックニーの議論を通じて、美術史学的な議論とはまた違った視点から「視覚」について考えてみます。ホックニーは画家として高名ですが、彼の著書『秘密の知識』は、15世紀の始め頃に西洋の画家たちが何らかの光学機械を使い始めたのではないかという仮説を提示しています。西洋美術史の中では、たとえばフェルメールがカメラ・オブスクーラと呼ばれる光学装置を用いていたと言われますが、ホックニーによれば、光学機械の使用はこれまで想定されていたよりもはるかに大規模かつ広範囲に行われていたことになります。そして「レンズを用いて描いたイメージ」と「眼で見て描いたイメージ」という新しい区別を美術史に持ち込んでいます。彼の仮説をたどりながら美術史を見直すことで、また新しい視覚を手に入れることができます。

そして最終回では、グリゼルダ・ポロックによるフェミニズム美術史の試みを手がかりに、これまで視覚の可能性の外に置かれてきた存在、つまり女性に目を向けます。ポロックは、美術史という学問そのものがいかに男性中心的な視線によって構築されてきたかを問い直しました。そしてこの男性中心的な視線を、特に印象派の具体的な作品の分析から暴きだします。この視線は鑑賞者であるわれわれもまた、知らず知らずのうちに身につけ、内面化してしまっているものです。したがってここでの議論は、単に作品の鑑賞を問うにとどまらず、私たち自身のもつ視覚それ自体を問いなおすことにつながるはずです。

以上を通じて、各自がみずからの視線をとらえ直し、美術にかぎらず新たな視線を獲得してもらえることを願います。

(c) Tammar
Thank you for being mar.

※受講者はアーカイブ(録画)の視聴が可能です。リアルタイムで授業に参加できない場合も見逃しなく受講できます。
※途中参加の場合も、全授業のアーカイブ動画をご覧いただけます。
※アーカイブ動画は、最低1年間視聴可能です。


◆受講の流れ◆

1. お申し込み

2. 開講&受講の決定

3. リアルタイムで授業に参加/アーカイブを見る/クラスルームから資料にアクセス

◦リアルタイム授業への参加URLは、受講決定時に自動送信されるメールに記載されている他、クラスルーム(下記)、マイページ内「ダッシュボード」からもご確認いただけます。また、各授業日の2日または3日前にリマインダーメールをお送りいたします。

◦講師とのやりとりや資料の配付、講座に関する運営からのお知らせ等は、Google社が提供する学習管理アプリケーション「Googleクラスルーム」から行います。クラスルームにつきましては、受講決定時に別途招待メールが届きますので、そちらからご参加ください。

◦クラスルームの使い方についてはこちらをご覧ください。

◦授業のアーカイブ動画は、通常授業後48時間以内に運営から公開され、公開時にメールにて通知が届きます。

◦アーカイブ動画はマイページ内「受講状況」からご覧いただけるほか、本ページ下部の「授業スケジュール」およびクラスルームからもご覧いただけます。

◦ディセミネでの初回受講時に送られる招待メールを承認することで、Googleカレンダーと自動で同期が可能です。是非ともお使いください。

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授業予定

第1回 2026年6月1日(月)20:00〜21:30

ゴンブリッチと見ることのメカニズム


第2回 2026年6月15日(月)20:00〜21:30

ヴェルフリンとバロック美術


第3回 2026年7月6日(月)20:00〜21:30

リーグルと古代美術


第4回 2026年7月20日(月)20:00〜21:30

ヴォリンガーとゴシック美術


第5回 2026年8月3日(月)20:00〜21:30

ルネ・ホッケとマニエリスム


第6回 2026年8月17日(月)20:00〜21:30

ホックニーによる新しい美術史の基準


第7回 2026年8月31日(月)20:00〜21:30

ポロックとフェミニズム美術史

※ 授業の進捗等により予定が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

こんな人におすすめ

美術・芸術に興味がある人
作品を一歩踏み込んで見たい、理解したい人
さまざまな作品の見方を学びたいひと
理論や学問が鑑賞にどう関わるのかを体験したい人
美術史学の歴史や理論に興味がある人

講師情報

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渡辺洋平

1985年宮城県生まれ。京都大学総合人間学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科修了。
専門は思想史・芸術史。

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授業スケジュール

  • 次回開催

    2026年6月1日 20:00 〜 21:30

    第1回 ゴンブリッチと見ることのメカニズム

    参加可能人数: 無制限
     
  • 2026年6月15日 20:00 〜 21:30

    第2回 ヴェルフリンとバロック美術

     
  • 2026年7月6日 20:00 〜 21:30

    第3回 リーグルと古代美術

     
  • 2026年7月20日 20:00 〜 21:30

    第4回 ヴォリンガーとゴシック美術

     
  • 2026年8月3日 20:00 〜 21:30

    第5回 ルネ・ホッケとマニエリスム

     
  • 2026年8月17日 20:00 〜 21:30

    第6回 ホックニーによる新しい美術史の基準

     
  • 2026年8月31日 20:00 〜 21:30

    第7回 ポロックとフェミニズム美術史

     

美術の多様性はどこから生まれるのか——「視覚」の諸相から考える美術の見方

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