[イギリス経験論再考]経験と認識はどうかかわるのか——哲学と日常の交差点をさぐる
開講期間: 2026年4月1日 〜 2026年9月16日
3週に1回、水曜日20:00-21:30
難易度: 中級※ 難易度についてはこちらを参照ください。
内容紹介
しかし、他人の経験を参考にしたことによってかえって失敗するということも、しばしばよく見かける光景です。さらに、数年前に経験したことにもとづいて判断を下し、状況が一変していたがために誤りに至ることもあるでしょう。この場合、自分自身の経験でさえ、ミスリーディングになるのです。
人はなぜ経験や体験に頼るのでしょうか。なぜ経験を重視するのでしょうか。この講義では、この問いについて答えを与えるべく、経験について論じた哲学者について触れていきます。それは、ロック、バークリー、ヒュームとしばしばひとまとめにされる(古典的な)イギリス経験論者たちです。私たちの認識を論じるにあたり、彼らは同時代の哲学者と比べて経験を重視した立場をとります。彼らの主張は、人はなぜ経験や体験に頼るかという問いへ一つの答えを与えてくれそうです。
もちろん「経験」は、イギリス経験論以前でもたびたび哲学上のテーマとなりました。ただし、その扱いはやや消極的なものでした。たとえばプラトンは感覚経験を不確かなものとみなし、真の知識はイデアの認識にあると考えました。これに対しアリストテレスは、感覚から記憶や経験が形成され、そこから普遍的知識が成立すると説明しつつ、その根拠は外側の世界に位置付けられていました。近代哲学の祖であるデカルトにおいても、観念をベースに経験を語ることができる一方、そのなかでも生得観念は経験とは異なる根拠をもつものだと考えられています。
これに対してイギリス経験論は、認識の起源を徹底して経験に求め、人間の認識能力を経験の範囲から分析しようとしました。ジョン・ロックは経験的に得られる諸観念を経験の場面に立ちかえって論じました。バークリーはロックの路線をよりラディカルに進めた結果、ロック哲学のいくつかの側面を否定するに至りました。デイヴィッド・ヒュームは因果関係や自我といった概念を経験以上の原理を廃しつつ批判的に検討しました。こうした議論の哲学史的意義は、「経験」を単なる認識の材料ではなく、人間の認識の限界を示す基準として位置づけた点にあります。これにより、経験の条件を問うイマヌエル・カントの批判哲学へと道が開かれました。
以上のような理解を念頭におきつつ、今回の講座では、ロックやヒュームの時代よりもう少し前までさかのぼり、なぜ「イギリス」経験論であったのか、つまり経験論がなぜイギリスで興ったのかを考えます。
近代化の萌芽がみられるヨーロッパにおいて、他の国で経験論が花開いてもよかったのではないでしょうか。この問いは、単に哲学や思想のみに目を向けていては答えられません。当時のイギリスの学術、科学の受容のあり方や、西洋以外の文化圏との接触による自国の文化の相対化、また宗教に由来する熱狂への忌避などが、「実際に経験することをもとに認識をもとづける」という態度を作り上げました。イギリス経験論そのものだけでなく、それが生じてきたさまざまな背景に目を向けることにより、「経験」のもつ意義を(哲学とは関わりのない側面からも含めて)一層深い次元から把握しうるとともに、現代の私たちがなぜ経験を重視する、あるいは軽視するのかについての答えを与えられるようになるでしょう。
各回内容
【第一回〜第三回】経験概念の意義や経験論という立場を把握するためには、経験論が生まれた背景を知る必要があります。「イギリス経験論」とわざわざ名付けられたからには、それが生まれる以前は少なくとも経験への相対的な軽視があったはずだからです。
そこで第一回から第三回にかけては、イギリス経験論が生じた背景を、おもに日常的、思想的、地理的といった観点から確認していきます。具体的には、それまでの学問における核となっていたプラトンやアリストテレスの思想での経験の位置付け、イギリスという国、文化が生み出した経験論の風土、そして経験論者が総じて採用してきたデカルトの観念論の枠組みを提示します。
【第四回〜第五回】
いよいよイギリス経験論の本丸に足を踏み入れます。第四回から第五回にかけては、ジョン・ロック(John Locke 1632-1704)の思想を扱います。ロックが、デカルトの体系に影響を受けながらも、デカルトの議論のいくつかを退けようとする議論こそ、近代の経験論の起源といってもよいでしょう。
まず第四回では、ロックがデカルトの観念論を経験論に引き込んだ過程を詳しくみていきます。その後、第五回では、デカルトが提示した種々の生得観念に対するロックの批判を紹介し、近代の経験論がもつ立場、つまり「このような状況を経験すると人はこのような観念をもつ」というロジックを確認します。
【第六回〜第八回】
ジョージ・バークリー(George Berkeley 1685-1753)は、ロックがデカルトの思想を批判的に継承したのと同じように、ロックの哲学を引き受けつつ、そこにある重大な変更を主張します。それは、観念によって直接的に把握できない物質の存在を否定することです。
第六回では、物質で構成される外側の世界を否定するバークリーの論理を追いながら、そこに哲学の議論の特徴である先鋭化の傾向を見ていく予定です。
つづいて第七回では、バークリーの(それ自体必ずしも悪いことではない)不徹底さを取り上げます。私たちの心や神の存在といった、それ自体主観的な観念に還元できないものを、バークリーは認めています。なぜそのような不徹底にとどまったか。その理由や論理は、哲学と日常世界との緊張関係を指し示すもので、とても興味深いものです。
最後に第八回は、バークリーが踏んだブレーキを緩め、経験論をさらに推し進めたデイヴィッド・ヒューム(David Hume 1711-1776)の経験論を扱います。ヒュームは、デカルトから引き継いだ観念論の立場を徹底し、物体のみならず、自我(精神的実体)や神といった概念にも批判的な目を向けます。この回は、イギリス経験論の先鋭化の最終地点であるヒュームが、結果としてどのような主張に至ったのかを見ていきます。
【第九回】
最後に、これまでの議論をまとめ、経験論という立場の生成の流れと、「なぜ経験を重視するのか」という問いに対し、どのような答えが期待できるかを考えてみたいと思います。
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授業予定
なぜ「イギリス」経験論なのか
第2回 2026年4月22日(水)20:00〜21:30
なぜ「経験」は軽視されていたのか
第3回 2026年5月13日(水)20:00〜21:30
イギリス経験論の母体としてのデカルト哲学
第4回 2026年6月3日(水)20:00〜21:30
ロックの経験論と観念論の基本的特徴
第5回 2026年6月24日(水)20:00〜21:30
ロックの生得観念説批判
第6回 2026年7月15日(水)20:00〜21:30
バークリーの「外の世界」批判
第7回 2026年8月5日(水)20:00〜21:30
なぜバークリーは「意識」や「神」を残したのか
第8回 2026年8月26日(水)20:00〜21:30
経験論の終着地点としてのヒューム
第9回 2026年9月16日(水)20:00〜21:30
まとめ––経験の意味と限界について
※ 授業の進捗等により予定が変更になる場合がございます。予めご了承ください。
こんな人におすすめ
経験論の根源、由来を深く考えてみたい人
哲学という営みのダイナミズムの一例に触れたい人
講師情報

授業スケジュール
次回開催
2026年4月1日 20:00 〜 21:30
第1回 なぜ「イギリス」経験論なのか
参加可能人数: 無制限2026年4月22日 20:00 〜 21:30
第2回 なぜ「経験」は軽視されていたのか
2026年5月13日 20:00 〜 21:30
第3回 イギリス経験論の母体としてのデカルト哲学
2026年6月3日 20:00 〜 21:30
第4回 ロックの経験論と観念論の基本的特徴
2026年6月24日 20:00 〜 21:30
第5回 ロックの生得観念説批判
2026年7月15日 20:00 〜 21:30
第6回 バークリーの「外の世界」批判
2026年8月5日 20:00 〜 21:30
第7回 なぜバークリーは「意識」や「神」を残したのか
2026年8月26日 20:00 〜 21:30
第8回 経験論の終着地点としてのヒューム
2026年9月16日 20:00 〜 20:30
第9回 まとめ––経験の意味と限界について
[イギリス経験論再考]経験と認識はどうかかわるのか——哲学と日常の交差点をさぐる
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