入門!カント『純粋理性批判』——全体の構想を読み解く「序文」「序論」編
開講期間: 2026年2月19日 〜 2026年6月4日
3週に1回、木曜日20:00-21:30
難易度: 中級※ 難易度についてはこちらを参照ください。
内容紹介
カントは18世紀のプロイセンに生きた哲学者です。カントは多くの哲学的著作を遺し、彼の思想はそれ以降の哲学に大変大きな影響を与えました。カントが取り組んだ問題は、世界が私たちにどのように経験されるのかを探求した認識論や、私たちが何かを美しいと判断する仕方を探求した美学論、私たちがいかに生きるべきかを問うた倫理学など多岐にわたります。
中でも、本講座が扱う『純粋理性批判(Kritik der reinen Vernunft)』(初版1781年、第二版1787年)は、カントの紛うかたなき代表作にして、近代哲学の大きな転換点を画した一冊として知られています。その理由は、この著作が人間のあらゆる学問、人間のあらゆる生活の要である「知る」という営みに鋭く切り込み、類稀なる視点から論じたからです。
『純粋理性批判』の問題意識は、形而上学(経験を超えた「世界」や「自由」の性質を知ろうとする学)が昔から問い続けてきたテーマが、なぜいつも決着しにくく、むしろ議論が混乱してしまうのか、というところに出発点があります。
たとえば私は小さい頃、「この世界がはじまったのはいつ、どのようにしてなのか」を考えてひどく混乱したことがあります。母にたずねると「この世界がはじまったのはビッグバンが起こったからだよ」と教えてくれました。でも私はすぐに、「世界がはじまったのがビッグバンだとして、ビッグバンの前には何があったのか」と考え込んでしまいました。ある本を読むと「神がこの世界を創造した」と書かれていて、ひとつの答えに触れた気持ちにもなります。それでも、世界がはじまったのが神の意志によるのだとして、その“前”はどう考えればいいのかという問いが頭から離れませんでした。答えを知りたいのに、問いを進めるほど足元がなくなるような感覚が残っています。
同じように、「私たちの行為はどこまで自由なのか」という問題にも、似た種類の引っかかりが感じられます。たとえば、誰かにちょっとした親切をしたときに「自分が選んだ行動だ」と胸を張りたい一方で、「そのときの気分や体調、育った環境、その場の状況が重なった結果として、その行動は自然に決まっていたのではないか」とも感じます。もし心の動きや行動が因果の連鎖で完全に決まるのだとしたら、私たちが行動を「選んだ」と感じることはどこまで確かなのでしょうか。けれど逆に、すべてが自由だと言い切るのも、なんだか違う気がします。
カントは、まさにこうした経験に似た混乱が、理性の使い方にある種の「無理」が生じることで起こるのではないかと考えます。だからこそ本書は、こうした問いにいきなり答えを出すのではなく、まず「そもそも私たちは何を、どんなやり方で知り得るのか」を確かめようとします。言い換えると、理性がきちんと働ける範囲と、無理をすると迷子になる範囲を見分けるために、私たちの認識の仕組みそのものを点検しようとするのです。こうして『純粋理性批判』は、形而上学の可能性を考えるための出発点として、理性の力と限界を同時に見つめ直すことを目指しています。
こうした問いは決して哲学者だけの関心事ではありません。私たちが日常で「これは正しい」と思うとき、そこには必ず「知るとは何か」という問いが潜んでいます。たとえば、濡れた地面や一気に散った桜の花びらを見て「昨晩雨が降ったのね」と言うとき、私たちは見てもいない雨の存在を「知っている」と思います。けれどもそのとき、本当に雨が降ったと言える理由はどこにあるのでしょうか? カントが試みた「批判」という営みは、まさにそうした思考の姿勢――自分たちが信じていることの土台に目を向け、その根拠を吟味しようとすること――にほかなりません。
その意味で『純粋理性批判』は、私たちが社会の中で生き、考え、判断し、信じるという営みすべての土台を問い直す書物だといえます。『純粋理性批判』が私たちに伝える哲学的態度は、膨大な情報にすぐ混乱させられる現代社会を生きる私たちにとっても、思考と判断の確かな足場となるでしょう。
さらに、『純粋理性批判』を通してカントの思想にふれることは、哲学という学問の全体像を理解する上でも重要な意味を持ちます。本書においてカントは、人間の認識について新たな哲学的枠組みを提示しました。その影響は、19世紀以降のドイツ観念論、現象学、分析哲学、さらには倫理学や政治哲学にまで及んでいます。この講座を通じてカントの思考方法を学ぶことは、単に一人の哲学者を理解するというだけでなく、哲学史全体を俯瞰し、今後他の哲学者たちの議論を読み解く際にも不可欠な視点を養うことになるでしょう。
★講座の構成★
本講座では、『純粋理性批判』のなかでも冒頭の「序文」と「序論(緒論)」の部分を丁寧に読み解きます。これらのパートは、まさに本書全体の設計図とも言える内容を含んでおり、本書を読み始め、かつ学び始めるのに最適な箇所だからです。序文と序論を通して、全体の見取り図を得ることができれば、本書のその後の内容(感性論、悟性論、弁証論など)への理解も格段に深まるはずです。また本講座は『純粋理性批判』を読み通すための第一歩であり、今後は続編として、序論の後に続く本論部分を扱う講座も開講予定です。
☆扱うテキストと進め方について☆
本講座では、特定の邦訳書を使用するのではなく、スライド資料として抜粋したテキスト(講師による日本語訳)を画面上に提示し、それを参照しながら進めていきます。したがって、あらかじめ特定の書籍をご準備いただく必要はありません。お手持ちの翻訳書があれば、そちらを参照していただいても結構です。講座の都合上、すべてのテキストを読むことはできませんが、可能な限りカントのテキストに即して読解と補足を重ねながら、初めてカントを読む方にも理解が深まるよう心がけて進めていきます。
カントにとって「批判」とは、単なる否定や反対ではなく、私たちの理性がどこまで何を可能にし、どこに限界があるのかを明らかにしようとする営みです。カントがこの試みを通じて目指したのは、信頼できる知識の基礎を築き直すことであり、それは現代を生きる私たちにも大きな示唆を与えてくれるでしょう。
誰が呼んだか「世界三大難書」のひとつとも言われるほど、抽象的かつ複雑な構成をもつこの書物ですが、それでもなお数多くの人々がこの本に挑み続けてきたのは、そこに深い知的刺激と実りがあるからにほかなりません。今回はその実りをもぎ取る第一歩を、ご一緒できると幸いです。
※受講者はアーカイブ(録画)の視聴が可能です。リアルタイムで授業に参加できない場合も見逃しなく受講できます。
※途中参加の場合も、全授業のアーカイブ動画をご覧いただけます。
※アーカイブ動画は、最低1年間視聴可能です。
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授業予定
カントという人と『純粋理性批判』の概要
第2回 2026年3月12日(木)20:00〜21:30
人間の理性に定められた困った運命
第3回 2026年4月2日(木)20:00〜21:30
形而上学が抱える問題
第4回 2026年4月23日(木)20:00〜21:30
私たちの「認識」はなにからできあがる?
第5回 2026年5月14日(木)20:00〜21:30
「ア・プリオリな認識」の可能性を問おう
第6回 2026年6月4日(木)20:00〜21:30
これから純粋理性批判がやるべきこと
※ 授業の進捗等により予定が変更になる場合がございます。予めご了承ください。
こんな人におすすめ
カントの思想に興味がある人
難しい哲学書を読んでみたい人
『純粋理性批判』を本気で読んでみたい人
『純粋理性批判』を読んで挫折したことがある人
講師情報

授業スケジュール
次回開催
2026年2月19日 20:00 〜 21:30
第1回 カントという人と『純粋理性批判』の概要
参加可能人数: 無制限2026年3月12日 20:00 〜 21:30
第2回 人間の理性に定められた困った運命
2026年4月2日 20:00 〜 21:30
第3回 形而上学が抱える問題
2026年4月23日 20:00 〜 21:30
第4回 私たちの「認識」はなにからできあがる?
2026年5月14日 20:00 〜 21:30
第5回 「ア・プリオリな認識」の可能性を問おう
2026年6月4日 20:00 〜 21:30
第6回 これから純粋理性批判がやるべきこと
入門!カント『純粋理性批判』——全体の構想を読み解く「序文」「序論」編
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