いかに民主主義を問いなおすか——哲学史からのアプローチ

開講期間: 2025年6月30日 2025年9月29日

隔週月曜日20:00〜21:30

難易度: 中級※ 難易度についてはこちらを参照ください。

受講者募集中

募集期間2025年6月23日 21:30 まで

授業回数7 回

受講料13,720 円

現在の申込数2(最低開講人数: 5)


内容紹介

近年、「民主主義の危機」や「民主主義の後退」といった言葉を目にすることが増えました。ポピュリズムの台頭、フェイクニュースや陰謀論の拡散、ソーシャルメディアの発達とそれにともなう情報のかたより、といった現象が民主主義への脅威と見なされているだけでなく、国際関係における権威主義的国家と民主主義的国家の対立も、さまざまな文脈で語られるようになりました。またその一方で、投票率の低さに象徴される政治的無関心や無力感も社会に蔓延しています。

しかしながらこうした現象が批判的に語られるとき、しばしば「民主主義は当然守られるべきものだ」という前提が暗黙のうちに想定されているように思われます。特にみずからと異なる見解を「ポピュリズム」や「権威主義」として批判するとき、こうした傾向があらわれているようです。

民主主義が完璧な制度ではないことは、現代の民主主義国家がさまざまな問題に直面していることからも明らかです。しかしこのことは、民主主義がもはや時代にそぐわないシステムであるとか、劣った政治体制であるといったことを、すぐに意味するわけではありません。むしろ、民主主義そのものを問いなおし、アップデートしていくことが求められているのです。民主主義そのものにひそむ危険や問題点に対して批判や反省の眼差しを向けることなく、絶対的なものとして民主主義をかかげることは、結局のところ、ひとつの判断停止でしかないでしょう。

本講座では、古代ギリシャから現代にいたる西洋哲学の思想家たちのテキストを手がかりに、民主主義の理念と問題点を歴史的かつ批判的に問いなおしていきます。それによって、民主主義をめぐる歴史的・思想史的な変遷を理解しつつ、現代社会を批判的にとらえる視点を提供することをめざします。

哲学史を振り返ってみると、実のところ、哲学者たちはほとんどつねに民主主義に対して否定的でした。哲学において、民主主義はむしろ「疑わしい制度」とみなされることが多く、肯定的な主張を見つける方が難しいというのが実情です。フランスの哲学者ジャック・デリダが言ったように、哲学史のなかには、民主主義を肯定する思想が「とても僅かしかない」のです。しかしこのことは逆に、哲学史から民主主義の問題点を引き出すことができる、ということでもあるでしょう。

本講座ではプラトンからデリダに至る西洋思想史のなかから重要なテキストを選び、内容を精査していきます。それによって私たちの生きる社会の基盤となる価値観がどのようにして生まれてきたのか、そして今後はどう進んで行くべきなのかを考えてみたいと思います。

各回内容

第1回と第2回では、古代ギリシャからプラトンとアリストテレスをそれぞれ取りあげます。両者が活動したアテナイは、古代において市民による直接民主制がもっとも発展した都市でしたが、プラトンもアリストテレスも民主制には批判的でした。

プラトンによれば、民主制とは自由と多様性をもっとも尊重する体制です。この意味で民主制は「もっとも美しい」国制でもあるのですが、その一方でこの自由は無秩序を生み、やがて独裁へと変貌する可能性をはらんでいます。こうした分析は、そのまま現代への警鐘としても読むことができるでしょう。

プラトンの弟子だったアリストテレスもまた、民主制を「正しい国制」とは異なる「逸脱した国制」のひとつとみなしました。しかしながら、アリストテレスが現実的な意味での最善の国制とみなした「中間の国制」は、中間層による安定的な支配体制であり、現代の議会制民主主義に近いものです。プラトンに比して「現実主義的」と呼ばれることの多いアリストテレスですが、彼の分析は、格差や分断が進む今日にも示唆を与えてくれます。

第3回から第5回では、近代の社会契約論を代表するホッブズ、ロック、ルソーを取り上げます。彼らは、人間社会や国家が成立する以前の「自然状態」を想定することで、社会や国家の力や機能、その生成過程を分析しようとしました。やがてロックの思想がアメリカ革命に、ルソーがフランス革命にそれぞれ大きな影響を与えたことからも分かるように、彼らの議論はどれも現代社会に大きく関わっています。自由と秩序、個人と共同体をどう調停するかという問題は、今日においてもなお根本的な問いであると言えるでしょう。

第6回第7回では、より現代に近い時代の思想家としてアーレントとデリダを取りあげます。アーレントは『革命論』(『革命について』)においてフランス革命とアメリカ革命を比較しながら分析することで、一般的な理解とは異なり、前者よりも後者を評価しました。その論理を追いながら、アリストテレスにも通じる「貧困」の問題の分析や、革命の中から発生してくる評議会制への評価など、彼女独自の政治思想を見ていきます。

最終回で取りあげるデリダは、晩年「来たるべき民主主義」という言葉をしばしば用いていました。それは、民主主義が決して完成した体制ではありえず、みずからに反するような要素さえも生みだしてしまうという「自己免疫的」な構造を示す言葉です。例えば、民主的に選ばれた指導者や政党が民主主義を廃棄することは許されるのでしょうか。これはまさに今日の世界において問われている問題だと言えるでしょう。

※受講者はアーカイブ(録画)の視聴が可能です。リアルタイムで授業に参加できない場合も見逃しなく受講できます。
※途中参加の場合も、全授業のアーカイブ動画をご覧いただけます。
※アーカイブ動画は、講座の受付終了から1年間視聴可能です。


◆受講の流れ◆

1. お申し込み

2. 開講&受講の決定

3. リアルタイムで授業に参加/アーカイブを見る/クラスルームから資料にアクセス

◦リアルタイム授業への参加URLは、受講決定時に自動送信されるメールに記載されている他、マイページ内「ダッシュボード」からもご確認いただけます。

◦講師とのやりとりや資料の配付はGoogle社が提供する学習管理アプリケーション「Googleクラスルーム」から行います。クラスルームにつきましては、受講決定時に別途招待メールが届きますので、そちらからご参加ください。

◦アーカイブはマイページ内「受講状況」からご覧いただけるほか、本ページ下部の「授業スケジュール」およびクラスルームからもご覧いただけます。

◦ディセミネでの初回受講時に送られる招待メールを承認することで、Googleカレンダーと自動で同期が可能です。是非ともお使いください。

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授業予定

第1回 2025年6月30日(月)20:00〜21:30

もっとも美しい国制——プラトン『国家』


第2回 2025年7月14日(月)20:00〜21:30

中間の人々によって構成される国家——アリストテレス『政治学』


第3回 2025年7月28日(月)20:00〜21:30

法なきところには不正もない——ホッブズ『リヴァイアサン』


第4回 2025年8月11日(月)20:00〜21:30

天に訴える自由——ロック『統治二論』


第5回 2025年8月25日(月)20:00〜21:30

一般意志によって市民であり自由である——ルソー『社会契約論』


第6回 2025年9月8日(月)20:00〜21:30

自由の創設としての革命——アーレント『革命論』/『革命について』


第7回 2025年9月29日(月)20:00〜21:30

来たるべき民主主義——デリダ『ならず者たち』


※日程の一部が変則的になっておりますのでご注意ください。

※ 授業の進捗等により予定が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

こんな人におすすめ

政治思想、政治哲学に興味のあるひと
社会契約論に興味のある人
アーレントやデリダの思想に興味がある人
民主主義について哲学的に考えてみたい人

講師情報

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渡辺洋平

1985年宮城県生まれ。京都大学総合人間学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科修了。
専門は思想史・芸術史。

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授業スケジュール

  • 次回開催

    2025年6月30日 20:00 〜 21:30

    第1回 もっとも美しい国制——プラトン『国家』

    参加可能人数: 無制限
     
  • 2025年7月14日 20:00 〜 21:30

    第2回 中間の人々によって構成される国家——アリストテレス『政治学』

     
  • 2025年7月28日 20:00 〜 21:30

    第3回 法なきところには不正もない——ホッブズ『リヴァイアサン』

     
  • 2025年8月11日 20:00 〜 21:30

    第4回 天に訴える自由——ロック『統治二論』

     
  • 2025年8月25日 20:00 〜 21:30

    第5回 一般意志によって市民であり自由である——ルソー『社会契約論』

     
  • 2025年9月8日 20:00 〜 21:30

    第6回 自由の創設としての革命——アーレント『革命論』/『革命について』

     
  • 2025年9月29日 20:00 〜 21:30

    第7回 来たるべき民主主義——デリダ『ならず者たち』

     

いかに民主主義を問いなおすか——哲学史からのアプローチ

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