恋愛(詩)の誕生――西洋抒情詩の歴史をたどる

開講期間: 2025年3月8日 2025年5月3日

隔週土曜日10:30〜12:00

入門★★☆

講義の開催が決定しました

授業回数5 回

受講料9,800 円

受講者数17(最低開講人数: 3)


内容紹介

「愛、それは12世紀の発明である。」

これは、19世紀後半から20世紀前半にかけて生きたフランスの歴史家セニョボスのものとして知られている言葉です。実際彼が発した文言はここまでセンセーショナルなものではなかったらしいのですが、それが含意するメッセージはあっという間に人口に膾炙しました。普遍的な感情と考えられていた「愛」が、12世紀に(ヨーロッパで)「発明」されたものだ、というのです。これが当時のフランスの文壇で大きなインパクトを与えたことは、想像に難くないでしょう。われわれ現代の日本人にとっても、かなり衝撃的な発言に聞こえますよね。

ところで、「愛」が「12世紀」に「発明」されたとは、一体どういうことなのでしょうか。男女の間の性愛は古今東西共通の現象と言えるでしょうから、ここでいう「愛」は「性愛」を指すわけではありません。ここではむしろ、性的交渉以外の感情的な面こそを「愛」の最大の価値(特徴)とみなすような愛、すなわち「恋愛」のことが問題となっているのです。「恋愛」が本当に12世紀に発明されたものなのか――この問題をめぐっては、否定的な見解を示す論客も少なくなく、議論の余地が残ります。ただ、我々が「恋愛」を表現する際に用いる言葉は、この時代(から14世紀までにかけて)発明されたものであることに疑いはありません。

実際、それまでラテン語で文章を執筆することが一般的であったヨーロッパにあって、普段話している言葉(地域によってさまざまな言葉がありましたが、それらをまとめて俗語と呼びます)によって多くの文章が書かれるようになったのは、12世紀のことでした。そしてそこで主に書かれたのが、(高貴な)女性に向けて送られた恋愛詩だったのです。当時の女性はラテン語が読めなかったため、求愛者は詩人となり、俗語によって愛を伝えたのでした。

中世に初めて恋愛詩を書いたのは、トゥルバドゥールと呼ばれる南フランスの吟遊詩人たちだったと言われます。そして、この流れを受けて、イタリアの地に中世文学の大輪の花が咲きます。

まずトゥルバドゥールたちの詩が、13世紀末に神聖ローマ帝国の首都があったシチリアに流入され、「シチリア派」と呼ばれる詩人たちが登場します。そして、そのシチリア派に範を仰ぎ、キリスト教の思想を取り入れつつ新たな恋愛詩を書くようになったのが中央イタリアに活躍した「清新体派」と呼ばれる詩人たちです。女性を天使に例える比喩や、愛を神聖なるもののように表現する定型句は、彼らによってまさに「発明」されたのでした。

中世最大の詩人ダンテも、若いころ、この「精新体派」の一員として女性を神のように礼賛する抒情詩を多く書きました(その多くが『新生』という詩集に収められます)。ところがダンテはその後、「愛」の見方を大きく変化させることになります。女性に対する愛と神に対する愛を同列に扱うことに、疑問を抱くようになったからです。ダンテは、「恋愛詩」を捨て「神の愛」を表現しようと試みます。そしてその努力が結実したものが、中世文学の金字塔『神曲』だったのです。

ダンテによって天上へ引き揚げられてしまった「愛」は、その次の世代の天才詩人ペトラルカによって再び地上に引き戻されます。いやペトラルカに至って、「愛」は「私」の中に完結する物語になったとまで言えるかもしれません。ペトラルカは、一目ぼれした女性ラウラを歌うために、366編の長短の詩を書き溜め、詩集『カンツォニエーレ』(正式名称は『俗語詩編』)を編みました。がその中身は、ラウラというより、ラウラを失った「私」を描いているように感じられます(失恋ソングの原形?)。ペトラルカはさらに、美しい女性の典型をその詩句によって表現しました。ボッティチェリの『春』に描かれるヴィーナスの容貌は、ペトラルカの詩句を表現したものだと言われています(金髪、風に揺れる巻き毛)。

それから150年ほどが経ってルネサンスと呼ばれる時代になると、ペトラルカの詩はヨーロッパ中で大流行します。フランスで「詩人の中の王様」と呼ばれるロンサールや、世界文学史上最大の作家とさえ言えるシェイクスピアにも甚大な影響を与えます。その後17世紀以降は、感情よりも理性が重んじられる時代の傾向に応じて、恋愛詩は勢いを失ってしまいます。ですが、19世紀が到来し、いわゆるロマン主義の時代に突入すると、再び多くの恋愛詩が執筆されるようになります。フランス革命の後のことですから恋愛はもはや貴族の特権ではなく、ペトラルカの恋愛詩の形式とも異なる新たな恋愛詩が誕生しました。ゲーテが、ワーズワースが、レオパルディが、ユゴーが……綺羅星のごとき詩人たちがヨーロッパ各国に登場します。ここに「恋愛(詩)」の革命が生じるのです!

各回内容

この講座は全5回の授業を予定しています。

第1回および第2回では、各回を3つのパートに分け、1)時代の社会状況を確認し、2)登場する詩人たちの概説を行い、3)具体的な作品の内容を一緒に見ていく、という流れで授業を進めます。具体的に言えば、第1回では、12世紀の西ヨーロッパの社会状況とトゥルバドゥールの詩とを、第2回では13世紀前半から後半にかけてイタリア半島の歴史とシチリア派および清新体派の詩とを、それぞれ取り上げます。

第3回と第4回では、恋愛詩の歴史に決定的な影響を与えた二人の詩人、ダンテとペトラルカに1回ずつ宛てて、より詳しく見ていきます。ダンテについては、彼の生涯、『新生』や『饗宴』に収められた青年期の恋愛詩、そしてそれらを自ら乗り越えて執筆した神聖なる「愛」の詩『神曲』を検討します。またペトラルカについても、彼の生涯を踏まえた上で、その後の抒情詩の歴史に絶大な影響を及ぼすことになる詩集『カンツォニエーレ』をクローズアップして紹介します。

最終回(第5回)では、『カンツォニエーレ』の流布という現象を軸に据えて、西洋におけるそれ以降の恋愛詩の歴史をダイジェストで紹介します。とりわけ、ペトラルカ的抒情詩(いわゆるペトラルキズム)が汎ヨーロッパ的な広がりを見せたルネサンス期、そして理性より感情の働きが重視されて恋愛詩が復活を遂げたロマン主義の時代にスポットライトを当てます。前者ではロンサールやシェイクスピアを、後者ではゲーテ、ワーズワース、レオパルディ、ユゴーといった詩人を、それぞれ作品と共に紹介する予定です。

全体を通じて、時代的・社会的な背景と個々の作家・作品とをともに見ていく講座になります。関連する日本語文献の紹介も可能な限り行う予定ですが、日本ではほとんど知られていない事象や日本語訳が存在していない作品については、担当講師が欧文文献に当たりつつ、要約や拙訳を通じて案内したいと思います。

※受講者はアーカイブ(録画)の視聴が可能です。リアルタイムで授業に参加できない場合も見逃しなく受講できます。
※途中参加の場合も、全授業のアーカイブ動画をご覧いただけます。
※アーカイブの視聴可能期間は、講座終了から1年間です。


◆受講の流れ◆

1. お申し込み

2. 開講&受講の決定

3. リアルタイムで授業に参加/アーカイブを見る/クラスルームから資料にアクセス

◦リアルタイム授業への参加URLは、受講決定時に自動送信されるメールに記載されている他、マイページ内「ダッシュボード」からもご確認いただけます。

◦講師とのやりとりや資料の配付はGoogle社が提供する学習管理アプリケーション「Googleクラスルーム」から行います。クラスルームにつきましては、受講決定時に別途招待メールが届きますので、そちらからご参加ください。

◦アーカイブはマイページ内「受講状況」からご覧いただけるほか、本ページ下部の「授業スケジュール」およびクラスルームからもご覧いただけます。

◦ディセミネでの初回受講時に送られる招待メールを承認することで、Googleカレンダーと自動で同期が可能です。是非ともお使いください。

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授業予定

第1回 3月8日(土)10:30〜12:00

恋愛の誕生――中世の吟遊詩人たち


第2回 3月22日(土)10:30〜12:00

恋愛詩イタリア上陸――シチリア派から清新体派まで


第3回 4月5日(土)10:30〜12:00

ダンテにおける二つの「愛」


第4回 4月19日(土)10:30〜12:00

恋愛詩の完成――ペトラルカと『カンツォニエーレ』


第5回 5月3日(土)10:30〜12:00

恋愛詩のその後――ロンサールとシェイクスピアからロマン主義まで

※ 授業の進捗等により予定が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

こんな人におすすめ

イタリアの文学について知りたい。
恋愛の概念について知りたい。
西洋の抒情詩を読んでみたい。
19世紀のペシミズムについて考えてみたい。

講師情報

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國司航佑

立命館大学准教授。
専門はヨーロッパ思想、ヨーロッパ文学。

講師情報の詳細を見る ▶


授業スケジュール

  • 2025年3月8日 10:30 〜 12:00

    第1回 恋愛の誕生――中世の吟遊詩人たち

    参加可能人数: 無制限
     
  • 2025年3月22日 10:30 〜 12:00

    第2回 恋愛詩イタリア上陸――シチリア派から清新体派まで

    参加可能人数: 無制限
     
    アーカイブ準備中
  • 次回開催

    2025年4月5日 10:30 〜 12:00

    第3回 ダンテにおける二つの「愛」

    参加可能人数: 無制限
     
  • 2025年4月19日 10:30 〜 12:00

    第4回 恋愛詩の完成――ペトラルカと『カンツォニエーレ』

     
  • 2025年5月3日 10:30 〜 12:00

    第5回 恋愛詩のその後――ロンサールとシェイクスピアからロマン主義まで

     

恋愛(詩)の誕生――西洋抒情詩の歴史をたどる

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