ドイツ語で『存在と時間』を読む
開講期間: 2024年10月13日 〜 2024年12月22日
隔週日曜日16:30〜19:00
発展★☆☆
内容紹介
ハイデガーの『存在と時間』は20世紀を代表する哲学書であり、わたしたちが現代の哲学書を読んだり、みずから哲学したりするうえで、必読であると言っても過言ではありません。そのため、この著作は何度も日本語に翻訳され、現在までに、少なくとも9種の邦訳が刊行されてきました。しかし、それほどに多種の翻訳が刊行されているということは、この著作には、どうしても翻訳することのできない「なにか」があるということを証明しているのではないでしょうか。
実際、ハイデガーがこの著作において使用している言葉や表現は、ドイツ語で読まなければわからない意味合いや息吹をもっています。そのため、この『存在と時間』は、ドイツ語で読むことによってこそ、いわばその「旨味」を最大限に引き出すことができるのです。
また、どんなに有名な哲学者の著作であっても、たとえばカントの著作のように、名文で書かれているとはかぎりません。それに対して、『存在と時間』は、比較的シンプルでキレイな文で書かれているため、ドイツ語の学習にも適しています(実際、担当講師がはじめてドイツ語で読んだ哲学書はまさにこの『存在と時間』でした)。もちろん、この著作は、その専門用語や思想内容という点においてむずかしいのも事実ですが、そうした点については十分に解説しますので、ご心配は無用です。
さて、ハイデガーが『存在と時間』において探究しているのはどのようなことであり、その探究の面白さとはどのようなものでしょうか。ハイデガーはこの著作において、現象学的な態度をとって、わたしたち人間やわたしたちの身の回りの世界の存在を探究しています。言い換えると、かれは、三人称的な視点ではなく、一人称的な視点をとって、「存在するのはどのようなモノであるか」ではなく、「存在するとはどのようなコトであるか」ということを探究しているのです。
ハイデガー自身がこの著作において問題にしている、わたしたちの「死」というものを例に挙げてみましょう。わたしたち人間の死は、たとえば医学的には「心臓や呼吸、脳が永久に止まってしまうこと」などとして定義されるようです。しかし、これは三人称的な視点から理解された死、つまり、他人の死であるにすぎません。なぜなら、わたしたちは、自分の心臓や呼吸、脳が永久に止まってしまった状態を経験することができないはずだからです。そのため、死の医学的な定義とは、他人の死の経験をもとにして作り出したものにすぎません。
それでは、わたしたちにとっての自分の死とはどのようなものでしょうか。もしわたしたち自身が死んでしまったとすると、自分ではその状態を経験することはできないはずです。そのため、哲学者のなかには、死は存在しないと主張するひともいます。しかし、おそらく多くのひとにとって自分の死とは無視できないなにかであり、いちどは「自分はいつか死んでしまうんだ」と絶望したことがあるのではないでしょうか。
つまり、わたしたちは自分の死を実際に経験することはできないけれども、自分の死という可能性とかかわって存在しているわけです。ハイデガーはこのようなわたしたちのありかたを「死へとかかわる存在(Sein zum Tode)」と呼んでいます。こうしたことは、わたしたちが一人称的な視点をとるからこそ理解することができるのです。
ハイデガーは人間の本質を、このように自分の存在、とくに自分の存在可能性とかかわっているというありかたのうちに見出し、このようなありかたを「実存(Existenz)」と呼んでいます。
人間の本質は、人間がもっている理性や大きな脳のうちに追求されることもありますが、ハイデガーによれば、同じ人間が、同じ理性、同じ脳をもちながらも、みずからの本質を発揮している場合とそうでない場合、人間らしく存在している場合とそうでない場合の両方があります。人間の本質が自分の存在、存在可能性とかかわるというありかたにあるとすれば、まさに死という可能性に真正面から向き合うというありかたをしている場合、人間はみずからの本質を発揮し、人間らしく存在しているというわけです。
このようなことは、人間の本質を、人間がもつ理性や大きな脳というモノのうちにではなく、人間が存在するとはどのようなコトであるのかということのうちに探究するからこそ理解されるのです。
現代において、わたしたちは自分のことを一人称的な視点よりも、むしろ、三人称的な視点において理解する傾向にあるのではないでしょうか。たとえば、「わたしたちの人生はすべて、生まれもった素質や育った環境によって決まる」と考えるときがそうです。最近では「親ガチャ」という言葉をよく耳にします。それは統計学的な事実であるかもしれません。
しかし、わたしたちは、たとえ統計学の知識をもっていたとしても、自分の人生の当事者として、素質や環境に由来する障害を克服するという可能性を思い描いてしまう、つまり、そのような可能性とかかわって存在しているはずです。そのため、わたしたちは、ハイデガーの『存在と時間』の読解をとおして人間の存在を探究することによって、自分自身の人生を他人事として傍観するのではなく、みずからをその当事者として理解し、それと真正面から向き合うことになるわけです。そこにこそ、この著作の面白さと、現代のわたしたちがこの著作を読解することの意義があります。
人間のありかたについて、そして自分自身のありかたについていっしょに哲学してみませんか?
今期の講座で読解する箇所
この講座は今期から開始します。序論(第1〜8節)については講師が解説し、第1部の最初から(第9節〜)みなさんとともに読解していきます。1回につき5ページほどの読解を目標としますが、受講者のみなさんの語学力や理解度に合わせて進めていきます。講座の難易度と進め方
ドイツ語のレベルとしては、ひととおり初級文法を学び終えていることを想定しています。「いちおうやったけど、自信はない…」というひとでも大丈夫です。受講者全員の語学力が完全に一致するということはありえませんので、進むスピードが速くなったり、遅くなったりすることがあることについてはご理解ください。自信がないひとには翻訳の担当箇所を少なくするなどしますので、ご安心ください。『存在と時間』には古典ギリシャ語なども用いられていますが、ドイツ語以外の外国語の知識は必要ありません。哲学のレベルとしては、初級〜中級を想定しています。講座は、以下のように進めていきます。
【事前準備】
・受講者のレベルに応じて、翻訳の担当箇所を決める。※初回は、講師が講座の進め方の説明や序論(第1〜8節)の解説をしますが、時間に余裕があれば、第9節から読み進めていきますので、可能であれば予習しておいてください。
【講座当日】
・受講者に音読と訳読をしてもらう。・講師が文法や内容について解説する。
【注意事項】
※マイクが必要になりますのでご準備ください(カメラによる顔出しは任意とします)。
※1回の講座で可能なかぎり切りのよいところまで読解することを目標とします。そのため、終了時間が前後することがあります。
※欠席する場合やネットの回線状況が悪かったときのためにアーカイブ動画を残します。ただし、出席が前提の講座となりますのでアーカイブのみでの受講はお断りいたします。受講決定後の返金等もいたしかねますので、あらかじめご了承下さい。欠席する場合は、なるべく事前にお知らせ下さい。
※開講後にお申し込みいただいた方には、それまでに開講された授業のアーカイブ動画を見れるよう手続きいたします。
テキスト
ハイデガー『存在と時間』のドイツ語原典は、全集版(クロスターマン社)と単行本版(ニーマイヤー社)が刊行されており、後者は第1〜19版が刊行されています(第15版以降の内容はまったく同じです)。すでに原典を所有しているひとは、あらたに購入する必要はありません。所有していないひとには、もっとも手に取りやすい下記のものを購入することをオススメします。下記のもの以外でもかまいませんが、著作権の都合上、テキストの配布はできませんので、かならず各自ご入手のうえご参加ください。もし講座の開始までに入手できないなどの場合は、ドイツ語講座お問い合わせフォームよりご相談ください。また、予習するさいに、邦訳があると便利でしょう。邦訳については、熊野純彦訳の岩波文庫版をオススメしますが、購入は必須ではありませんし、これ以外の邦訳でも十分です。
Martin Heidegger, Sein und Zeit, 19. Aufl., Tübingen: Max Niemeyer, 2006.
紀伊國屋書店での購入ページ:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-02-9783484701533
Amazon(日本)での購入ページ:https://www.amazon.co.jp/dp/3484701536
◆受講の流れ◆
1. お申し込み↓
2. 開講&受講の決定
↓
3. リアルタイムで授業に参加
◦リアルタイム授業への参加URLは、受講決定時に自動送信されるメールに記載されている他、マイページ内「ダッシュボード」からもご確認いただけます。
◦講師とのやりとりや資料の配付等は、Google社が提供する学習管理アプリケーション「Googleクラスルーム」から行います。クラスルームにつきましては、受講決定時に別途招待メールが届きますので、そちらからご参加ください。
◦本講座は自動でのアーカイブ動画の公開はありません。欠席する場合やその他不具合が生じた場合は、講師もしくは運営までご連絡ください。
◦ディセミネでの初回受講時に送られる招待メールを承認することで、Googleカレンダーと自動で同期が可能です。是非ともお使いください。
授業予定
イントロダクション、講師による序論(第1〜8節)の解説など
第2回 2024年10月27日(日)16:30〜19:00
第1部の最初(第9節)〜
第3回 2024年11月10日(日)16:30〜19:00
第4回 2024年11月24日(日)16:30〜19:00
第5回 2024年12月8日(日)16:30〜19:00
第6回 2024年12月22日(日)16:30〜19:00
※ 授業の進捗等により予定が変更になる場合がございます。予めご了承ください。
こんな人におすすめ
ドイツ語で哲学書を読んでみたい/読めるようになりたい人
哲学書、ドイツ語の読解力を身に付けたい人
大学院の受験を予定している人
講師情報
授業スケジュール
次回開催
2024年10月13日 16:30 〜 19:00
第1回 イントロダクション、講師による序論(第1〜8節)の解説など
参加可能人数: 無制限2024年10月27日 16:30 〜 19:00
第2回 第1部の最初(第9節)〜
2024年11月10日 16:30 〜 19:00
第3回
2024年11月24日 16:30 〜 19:00
第4回
2024年12月08日 16:30 〜 19:00
第5回
2024年12月22日 16:30 〜 19:00
第6回
ドイツ語で『存在と時間』を読む
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