人間性とは何か——フロイト『精神分析入門講義』を中心に

開講期間: 2024年06月24日 2024年10月07日

入門★★☆

※ この講座はすでに終了しており、アーカイブと資料のみのご提供となります。リアルタイムでの授業や質問の受付などはありませんのでご注意ください。

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講義回数7 回

受講料13,720 円

受講者数22


内容紹介

無意識の動作、無意識の思考、無意識の欲望。今日、多くの人はこういった表現に触れたことがあるでしょう。私たちは自分の思考や感情や行動を完全に支配しているわけではなく、どこかで無意識的な機構(メカニズム)によって突き動かされている、こうした考え方は現代においては広く受け入れられているものだと思います。

しかし精神分析の創始者であるフロイトが「無意識」という考え方を提示したとき、同時代の人々の反応はこれとまったく異なるものでした。当時の人々にとって「意識」と「心的なもの」は同じであり、〈心のなかにあるにもかかわらず意識されないもの〉という無意識の定義は、それ自体がほとんど矛盾したものでした。

とはいえフロイトの考え方が反感を買ったのは、単に人間の心のなかに意識の届かない無意識的なものがあると指摘したからではありません。フロイトはさらに、無意識のなかには性的な欲動が蠢めいており、それが人間の行動に大きな影響力を持ち、神経症をはじめとする精神的な病の原因となりうるとともに、文学や芸術などの文化にとっても無視できない力をふるっていると考えました。しかもこの性欲動は生まれたばかりの子供にも見出され、人間は生まれつき性的な生活を送っていると考えたのです(ただし当然ながら子供の性生活は大人のそれとは異なります)。

こうしたフロイトの主張はヨーロッパの伝統的な人間観に真っ向から対立するものでした。

デカルトからフッサールの現象学にいたるまで、近代の西洋哲学は「主観」ないし「意識」をその主要な議論の場としてきましたし、人間は欲望によって道を踏みはずしてしまうからこそ理性によって欲望を制御しなければならないという発想も、古代ギリシャのプラトンにすでに見られるものです。「純粋で無垢なる子供」という幻想は、現代にも根強く残っているように思えます。

したがって、フロイトが見出した無意識のありようは、古来の、そしていまでもなお根強く残る「人間性」の観念やイデオロギーに対して根本的な疑義を呈するものでもあります。近年、性的マイノリティに関する議論が日本国内でも広く行われるようになりましたが、すでに個人の中には複数の性が存在していることもフロイトは見抜いていました。

本講座では、昨年(2023年)岩波文庫に入ったフロイトの『精神分析入門講義』をベースにしながら、フロイト流の「無意識」という観点から「人間とは何か」を再検討してみたいと思います。

フロイトがウィーン大学で行った講義の記録である『精神分析入門講義』は、もともと精神分析に詳しくない聴衆に向けたものであることから、言い間違いや聞き間違いといった「失錯行為」についての話からはじまり、誰もが見たことのある「夢」の分析を経て、前期フロイト理論の集大成と言うべき第三部「神経症総論」へと展開していきます。精神分析に興味をもった人がまずはじめに読むべき書であるだけでなく、広く人間の心やセクシュアリティに関心をもつ人にとっても一度は目を通すべき古典のひとつです。

たしかにフロイトの理論と呼ばれるものは図式的に解説されただけでは荒唐無稽に見える部分がありますし、現在の観点から見てほとんど支持しがたいような論点もないわけではありません。しかしフロイトは多くの場合医者としての臨床経験から自らの考察を引き出しており、そこにはある程度の妥当性が存していることもまた確かです。

フロイト的に考えるならば、人間は根本的に性的で、エゴイストで、倒錯的で、神経症で、マゾヒストだということになります。それを非人間的と拒絶するのではなく、むしろその事実を見定めた上で新たな「人間」像をつくっていくこと。それはあらゆる価値観が多様化した現代においてより必要となる課題であるでしょう。

参考文献

ジークムント・フロイト『精神分析入門講義』上下巻、 高田珠樹/新宮一成/須藤訓任/道籏泰三訳、岩波文庫、2023年

本講座は、この本をベースに進めていきますが、必ずしもご自身で用意していただく必要はありません。また講座での議論も、必ずしもフロイトの講義の順番どおりには進みません。テーマに応じて前後を横断的に考察し、必要な場合はそれ以外の著作も参照します。とはいえご自身でも読んでいただくことで、より理解が深まると思います。

『精神分析入門講義』には他にも翻訳がありますので、すでにお持ちの場合そちらを参照していただいても構いません。ただし用語等に関しては基本的に岩波版に依拠します。

※受講者はアーカイブ(録画)の視聴が可能です。一部の回に参加のご都合がつかない場合も、見逃しなく受講できます。
※アーカイブの視聴可能期間は、講座終了から1年間です。

◆受講の流れ◆

1. お申し込み

2. 開講&受講の決定

3. リアルタイムで授業に参加/アーカイブを見る/クラスルームから資料にアクセス

◦リアルタイム授業への参加URLは、受講決定時に自動送信されるメールに記載されている他、マイページ内「ダッシュボード」からもご確認いただけます。

◦講師とのやりとりや資料の配付はGoogle社が提供する学習管理アプリケーション「Googleクラスルーム」から行います。クラスルームにつきましては、受講決定時に別途招待メールが届きますので、そちらからご参加ください。

◦アーカイブはマイページ内「受講状況」からご覧いただけるほか、本ページ下部の「授業スケジュール」およびクラスルームからもご覧いただけます。

◦ディセミネでの初回受講時に送られる招待メールを承認することで、Googleカレンダーと自動で同期が可能です。是非ともお使いください。

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授業予定

第1回 6月24日(月)20:00〜21:30

精神分析の誕生


第2回 7月8日(月)20:00〜21:30

失錯行為とはなにか


第3回 7月22日(月)20:00〜21:30

夢と無意識、夢工作と夢解釈


第4回 8月5日(月)20:00〜21:30

エディプスコンプレクスの発見


第5回 9月9日(月)20:00〜21:30

子供の発達段階


第6回 9月23日(月/祝)20:00〜21:30

ナルシシズム


第7回 10月7日(月)20:00〜21:30

幼年期の性と芸術、昇華——『レオナルド・ダ・ヴィンチの幼年期の想い出』から

※ 授業の進捗等により予定が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

こんな人におすすめ

精神分析に興味のある人
人間の心や性に興味のある人
近現代の思想に興味のある人

講師情報

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渡辺洋平

1985年宮城県生まれ。京都大学総合人間学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科修了。
専門は思想史・芸術史。

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授業スケジュール


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