ハイデガー『存在と時間』を読む[自己と世界編]
開講期間: 2024年2月1日 〜 2024年4月18日
入門★★☆
※ この講座はすでに終了しており、アーカイブと資料のみのご提供となります。リアルタイムでの授業や質問の受付などはありませんのでご注意ください。
内容紹介
授業は前半「自己と世界」編5回、後半「死、時間、歴史」編4-5回(予定)で、毎回こちらでピックアップしたテーマに焦点を当て理解を深めていきます。こちらである程度要点を整理した上で、参加者で軽く意見交換をしてみたいと思います。必ずしも事前に読む必要はありませんが、部分的にでも読んできていただいたほうがより理解が高まるかと思います。苦手な人は聞いているだけでも大丈夫です。
また各授業の前後1週間に、Google Classroomを使って前回と次回の範囲についての質問やコメントを受け付けます。適宜利用してください。ただし、必ず回答できるとは限りませんので、その点のみご了承ください。
※著作権等の都合により、こちらでテキストを配るといったことはできません。各自でご準備ください。テキストがなくても参加は可能です。
※『存在と時間』は邦訳がたくさんありますが、もしどれを選ぶか迷った場合は、ハイデガー『存在と時間』Ⅰ-Ⅲ、原佑・渡邉二郎訳、中公クラシックスをお薦めします。
※受講者はアーカイブ(録画)の視聴が可能です。一部の回に参加のご都合がつかない場合も、見逃しなく受講できます。アーカイブの視聴可能期間は、講座終了から1年間です。
各回内容
第1回 自己とは何か箇所:『存在と時間』第一部第一編第一章9節、第二章12節
キーワード:自己(現存在、実存、世界内存在)
第1回のテーマは、ハイデガーの思想の哲学史上の位置づけと、ハイデガーが自己をどのように捉えているかについてです。ハイデガーはしばしば20世紀最大の哲学者とも呼ばれ、実存主義、存在論、現象学、解釈学等、哲学史上重要な分野を開拓しました。更に、『存在と時間』を初めとした独自の思想のインパクトにより教育、建築、精神医学等、様々な他分野に影響を与えました。
そうしたハイデガーは自己を、「現存在」、そして「世界内存在」として捉えていました。現存在とは存在が現れる場としての自己を意味します。世界内存在とは、自己が世界と不可分であり、世界に「慣れ親しんでいる」、「住んでいる」という仕方で存在しているという側面から自己を捉えている概念です。
これら自己の意味について、該当箇所を参照しつつ、具体例を挙げながら説明していきます。ご自身の自己観と付き合わせながら、自己の定義に関して考えてみましょう。
第2回 世界とは何か
箇所:『存在と時間』第一部第一編第三章14-18節
キーワード:世界(道具性、指示連関、有意義性)
第1回で現存在、世界内存在という、ハイデガーによる自己の再定義について議論しました。第2回では自己と不可分である世界について議論していきましょう。
ハイデガーによれば、世界内存在としての自己を構成する世界は、自己から独立して存在する物の集合ではなく、むしろ私たちがそのつど様々なあり方をするのに呼応してそのつど様々な仕方で現れるものであり、また反対に世界の生じ方に呼応して私たち自身のあり方が変化するものです。
そうした世界観を前提として、世界を構成するものの内、事物は日常的には「道具性」、つまり「使いやすさ」や「慣れ」というあり方において現れているとハイデガーは考えます。例えば大工さんが金槌を使うとき、改めてこれは金槌でどういう素材で、、、と考えてから使うというよりも、自然にただ金槌を振るい始めるということです。
そして事物の「道具性」というあり方は、物理的・歴史的に定められている他の事物への関連性に基づいており、人はそうした指示連関に沿いながら日常生活を営んでいます。
そうした指示連関としての世界は、その人それぞれの生を目的としたそのつどの意味づけにおいて、「有意義性」として現われます。例えば金槌は釘に、釘は板に、板は家にといったように連関し、そうした指示連関は家を建てるという目的にとって意味を持つといった具合です。
第3回 他者、世間とは何か
箇所:『存在と時間』第一部第一編第四章25-27節
キーワード:共世界、共存在、世間、世人
第2回では有意義性としての世界、特に事物と自己との関わり方について議論しました。第3回は世界が他者たちと共有する公共的な世界であることに焦点を当てて議論していきましょう。
当然ですが、世界は自分一人だけの世界ではなく、他者たちと共有する世界です。つまり他者たちも、自分と同じように「現存在」、「世界内存在」として世界の内に存在しています。自己の存在は本質的に他者たちと共にあること(「共存在」)によって構成されています。
そして、他者への関わり方は大きく分けて二つの可能性を持っているとハイデガーは考えます。それは、他者の自由を促すような関わり方と、意図せずとも他者から選択の自由を阻んでしまうような関わり方です。後者は「ひとが楽しむように楽しむ」というように、一様であることを求める関わり方だと言い換えられます。程度の差はあれ、誰しも後者の関わり方から完全に自由ではないかと思います。
こうしたハイデガーの現代人の大衆化への批判は『存在と時間』刊行から100年が経とうとしている今も、ある程度当たっていると言えるのではないでしょうか。
第4回 自己(世界内存在)の詳しい構造
箇所:『存在と時間』第一部第一編第五章28-31,35,38節
キーワード:被投性(事実性)、企投(可能性)、頽落
第2回、第3回で世界内存在を構成する世界と他者について議論してきました。第4回では世界内存在の構造を詳しく見ていきましょう。
世界内存在とは、言い換えれば、自己が世界と不可分な連関を持って存在している、世界に開かれ、世界を開く存在であるということを表しています。つまり世界は世界、自分は自分というように分離可能ではなくて、自己は世界に如何ともしがたく関わってしまっているということ、それがむしろ自分であるということを構成しているということです。
自己は、こうした世界内存在として、気付いた時には既に生まれた状態、つまり自ら意志したのではないにもかかわらず世界の内に投げ込まれているという事実の中にあり、これを「被投性」と言います。他方で、自己はこうした状況の中で、自らの、そして世界の可能性を開いていくという側面を持ちます。これを可能性の「企投」と言います。被投性と企投は結びついていて分離できず、企投はつねに被投的企投であるという構造をしています。
第5回 無について
箇所:『存在と時間』第一部第一編第五章39-41節
キーワード:不安、無、問い、哲学
第2回で有意義性としての世界について議論しました。第5回ではそうした世界の日常的・社会的規定が失われ、存在すること自体に対峙する経験、つまり存在への問いの始まりについて議論していきたいと思います。
私たちは日常的には、第1回から第4回まで議論してきたような、自己や世界の構造には目を向けず、生活していると思います。つまり、有意義性としての世界の内で、確かに事物とその指示連関を利用しながら生活していても、その指示連関という世界の構造に焦点を当てて考えることはほとんどないでしょう。しかし、何かのきっかけで漠然とした不安に襲われ、人は世界をいつも通りの慣れ親しんだものとして捉えることを一時的に止める時がごく偶にあるかと思います。それは身近な人の誕生や死など、大きな出来事によるかもしれませんし、あるいは人から見たらごく些細なきっかけによるかもしれません。
その際、慣れ親しんでいたはずの世界が見知らぬものとして、「問い」として現われてくる。ここで有意義化が一時停止しているのは、不安の中で自己の、そして人間の根源的な被投性、自らの誕生と死のコントロールできなさが浮き彫りになるからだと言えます。
これが「存在とは何か」といった根本的な問いの一つの始まりであり、哲学の始まりであると言えるのではないでしょうか。この回では「そもそも哲学とは何か」についても議論できればと思います。
◆受講の流れ
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授業予定
自己とは何か
第2回 2月22日(木)
世界とは何か
第3回 3月7日(木)
他者、世間とは何か
第4回
自己(世界内存在)の詳しい構造
第5回
無について
※第4回第5回の日程が変更となりましたのでご注意ください。
※ 授業の進捗等により予定が変更になる場合がございます。予めご了承ください。
こんな人におすすめ
『存在と時間』は、哲学の根本問題である「存在とは何か」という問いに正面から取り組んでいる重厚な著作でありながら、初学の方にも比較的入りやすい身近な内容を含んでいます。
そうした取り組みやすい箇所を選んで読んでいくので、哲学を初めて学ぶ方でも歓迎です。
講師情報
授業スケジュール
2024年2月1日 20:00 〜 21:30
第1回 自己とは何か
2024年2月22日 20:00 〜 21:30
第2回 世界とは何か
2024年3月7日 20:00 〜 21:30
第3回 他者、世間とは何か
2024年4月4日 20:00 〜 21:30
第4回 自己(世界内存在)の詳しい構造
2024年4月18日 20:00 〜 21:30
第5回 無について
ハイデガー『存在と時間』を読む[自己と世界編]
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