シュルレアリスム美術を考える ——「神の死」以後の美術/「真実」以後の美術として

開講期間: 2025年5月26日 2025年8月18日

隔週月曜日19:00に動画配信

難易度: 中級※ 難易度についてはこちらを参照ください。

※ この講座は録画配信での開講となります。リアルタイムの授業はありませんが、質問等については一定期間クラスルームにて受付・回答いたします(詳細は下記ご参照ください)。

受講者募集中

募集期間2025年5月19日 21:30 まで

授業回数7 回

受講料13,720 円

現在の申込数3(最低開講人数: 3)


内容紹介

日本では奇妙なものを指す場合に「シュールだ」と言ったりすることがありますが、これは20世紀最大の芸術運動とも呼ばれるシュルレアリスム(日本語では超現実主義とも訳されます)からきている言い方です。

シュルレアリスムは、フランスの詩人アンドレ・ブルトンによる『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』(1924年)の刊行によって公式にスタートし、第二次大戦後まで続きました。一般的にシュルレアリスムは、ジグムント・フロイトの精神分析に拠りつつ、夢や無意識の世界を探索した芸術運動とされています(ただしこれはかなり単純化された見方です)。

そして元々詩人たちの運動であったシュルレアリスムは、ほどなくして美術の領域も包含し、いまではむしろ、ルネ・マグリットやサルバドール・ダリの、謎めいた、いわば幻想的な作品の方がよく知られているといえるでしょう。

現在はポスト・トゥルース(「真実」以後:情報の氾濫により客観的事実による合意形成が困難となり、代わりに個人の感情などが事実とすりかえられる)の時代といわれますが、シュルレアリスムが活発に運動を行った20世紀前半、特に大戦間期の時期も、やはりある意味でポスト・トゥルースの時代だったといえます。

すでに19世紀末に哲学者フリードリヒ・ニーチェが「神の死」を宣言し、西洋形而上学を規定してきた超越的な真実(トゥルース)の無効化を主張していました。さらに第一次世界大戦の勃発によって近代西洋文化への信頼は急激に失墜し、また急速に発達するメディア環境のなかで、若い詩人や芸術家たちは新しい現実の在り方、また生き方を模索するようになりました。その様々な試みのひとつがシュルレアリスムだったのです。

こうした意味において、シュルレアリスム美術についていま振り返ることは、ポスト・トゥルースの時代について考えるヒントを与えてくれることでしょう。つまり、シュルレアリスム美術を通して芸術家たちは真実なき世界をどのように表現したのかを理解することで、美術表現と時代性や人間の生がどのように関係しているのか、ひいては真実なき世界において人間はどのように生きるのかを捉えることができるのです。それは、美術を通して時代を批評的に見つめる視点を確保し、現代というまさにポストトゥルース的な時代を生きる上での指針を探るよすがとなることでしょう。

本講座では、毎回シュルレアリスムの代表的画家を取り上げながら、これをニーチェの「神の死」という視点から読み解いていくことによって、シュルレアリスム美術が示すいわばポスト・トゥルース的な世界観のイメージ、在り方を理解していきたいと思います。つまりこれは美術史を同時代の思想的背景から考えるという試みです。

具体的には、まずマックス・エルンストの作品を通してシュルレアリスムの重要概念であるオートマティスム(自動記述)について理解してもらいます(第1回)。

次にシュルレアリスムの先駆者であったジョルジョ・デ・キリコの作品と理論から、ニーチェの「神の死」の問題を取り出した上で、この「神の死」の問題を記号論的に読み換えます。ここで「神の死」とは、神や超越的なものという「中心」が消失することで、そこに収斂することで保たれていたはずの(世界を構成する)事物=記号間のコンテクストもまた消え去り、記号がバラバラになった状態として捉えられることになります。このコンテクストを失ってバラバラになった記号の状態が、デ・キリコのいう「記号の孤独」です(第2回)。さらにこのバラバラになった記号がランダムに動きはじめるような状態、いわば「記号の流動」としてオートマティスムを規定し直します。

そしてアンドレ・マッソン、ジョアン・ミロ、イヴ・タンギー、ルネ・マグリット、サルバドール・ダリ、ロベルト・マッタらを個別のトピックとともに取り上げながら(第3回~第7回)、デ・キリコに端を発する「神の死」の美術がどのように展開していったのかを追っていくことになります。

これらの作業を通して、受講者の皆さんには、世界を、現実を、今とは少しだけ違った見方で眺める視線を身につけてもらえれば嬉しく思います。

※この講座は録画配信での開講となります。リアルタイムの授業はありませんが、質問等については各動画公開から2週間クラスルームにて受付・回答いたします。
※途中参加の場合も、全授業の動画をご覧いただけます。
※動画の視聴可能期間は、講座終了から1年間です。


◆受講の流れ◆

1. お申し込み

2. 開講&受講の決定

3. クラスルームから授業動画と資料にアクセス&質問をする

◦授業動画の配信および資料の配付、質問等の講師とのやりとりはGoogle社が提供する学習管理アプリケーション「Googleクラスルーム」から行います。クラスルームにつきましては、受講決定時に別途招待メールが届きますので、そちらからご参加ください。

◦授業動画はクラスルームのほか、本ページ下部「授業スケジュール」およびマイページ内「受講状況」からもご視聴いただけます。

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授業予定

第1回 2025年5月26日19:00

マックス・エルンストとオートマティスムの諸相


第2回 2025年6月9日19:00

ジョルジョ・デ・キリコと記号の孤独


第3回 2025年6月23日19:00

アンドレ・マッソン、ジョアン・ミロと記号の流動


第4回 2025年7月7日19:00

イヴ・タンギーとイメージの領域


第5回 2025年7月21日19:00

ルネ・マグリットと反形而上学的遠近法


第6回 2025年8月4日19:00

サルバドール・ダリとパラノイア的=批判的活動


第7回 2025年8月18日19:00

ロベルト・マッタと心理的形態学


※この講座は録画配信での開講となります。リアルタイムの授業はありませんが、質問等については各動画公開から2週間クラスルームにて受付・回答いたします。

※ 授業の進捗等により予定が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

こんな人におすすめ

美術に興味がある
シュルレアリスムに興味がある
奇妙なイメージ、不思議なイメージに興味がある
美術と思想の関係に興味がある

講師情報

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長尾天

シュルレアリスム、20世紀美術史

講師情報の詳細を見る ▶


授業スケジュール

  • 次回開催

    2025年5月26日 19:00

    第1回 マックス・エルンストとオートマティスムの諸相

    参加可能人数: 無制限
     
  • 2025年6月9日 19:00

    第2回 ジョルジョ・デ・キリコと記号の孤独

     
  • 2025年6月23日 19:00

    第3回 アンドレ・マッソン、ジョアン・ミロと記号の流動

     
  • 2025年7月7日 19:00

    第4回 イヴ・タンギーとイメージの領域

     
  • 2025年7月21日 19:00

    第5回 ルネ・マグリットと反形而上学的遠近法

     
  • 2025年8月4日 19:00

    第6回 サルバドール・ダリとパラノイア的=批判的活動

     
  • 2025年8月18日 19:00

    第7回 ロベルト・マッタと心理的形態学

     

シュルレアリスム美術を考える ——「神の死」以後の美術/「真実」以後の美術として

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